------総合病院の事例-----------

「突然、激しい頭痛に襲われた」と、中年男性が総合病院の救急外来を訪れた。

ところが、その日の救急外来は、いつにも増して慌ただしかった。男性はこめかみに手をやりながら、受付の職員に「まだですか?」と何度も尋ねるが、「順番にお呼びしますので、もう少しお待ちください」と事務的な返答を繰り返した。

男性が診察室に案内されたのは、来院してから1時間以上経ってからだった。

「いつまで待たせるんだ!」

男性は、思わず看護師に向かって声を荒げたが、ともかく痛みをこらえながら医師を待った。

しばらくして、若い医師がやってきて診察を始めた。医師は、パソコン画面の電子カルテに視線を向けたまま、患者と目も合わせず、ものの10分もしないうちに、「慢性頭痛ですね。念のために、CT検査を受けてください」と診断を下し、電子カルテに症状と処方を記録した。手際よく診察を終えた医師は、ホッとひと息ついた。

ところが、男性は険しい表情で医師を問いつめた。

「ちゃんと診察したのか?きちんと説明しろ!」

(了)

「病院での待ち時間」は、患者の不満で最上位にランキングされています。このケースでも、「まだですか?」というセリフから男性の苛立ちがわかります。

しかし、男性の怒りが爆発したのはその後です。長時間待たされたのに、わずか数分間で診察が終わったことに釈然としなかった部分もあったのでしょう。しかし、それ以上に、医師がパソコンに視線を向けたまま、患者と目を合わせなかったことが不信感を募らせたようです。

もし、医師が「1時間以上もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」とひと声かけていれば、男性がここまで激高することはなかったはずです。

このように、「初期段階での少しの気遣い」が足りなかったために、クレーム対応が長期化するケースは、さまざまな場面で見受けられます。

電車窓口での事例です。

------鉄道会社の事例-----------

鉄道会社の予約窓口で、女性が2人分の切符を購入しようとしていた。列車の発車時刻が迫っていたので、早口でまくし立てた。

「急いでください!トイレの近くの座席で」

駅員は、トイレから少し離れてはいたが、時間を優先してすばやく2人分の座席をブッキングして切符を手渡した。

ところが、それを見た女性客は金切り声を上げた。

「そんな座席じゃダメ!トイレの近くでって言ったでしょ!」

駅員は、どうして、そんなに怒るのだろうかとあっけにとられた。

しかし、女性の後方には車椅子が見えた。女性は、老親の介助ができる多目的トイレに近い座席を希望していたのである。介護疲れで、窓口では十分な説明ができなかったのだ。

(了)

クレーマーとは言い切れないまでも、独りよがりな言い分で担当者を困らせるお客様は大勢います。この女性も、そのひとりだと言えるかもしれません。

しかし、お客様をモンスター化させないためには、「なぜ、怒っているのか?」「本当は何を求めているのか?」ということに思いをめぐらせ、心情に寄り添う姿勢を見せることが、「要求」を「クレーム」に発展させないことにつながります。

たとえば、食品への異物混入を訴えるお客様に対しては、その事実を確認する前に、まずは

「ご体調を悪くされませんでしたでしょうか?」

と、相手の健康を気遣う姿勢を見せることが必要でしょう。

あるいは、注文した商品が破損していることに腹を立てているお客様に対しては、商品を交換すればよいと考えるのではなく、

「せっかく当社の商品をお買い上げいただいたのに、申し訳ございません」

と、期待を裏切ってしまったことに対してお詫びしたり、

「おケガなどはなさいませんでしたでしょうか?」

と、商品の破損によるケガや周囲の汚損に気を配ったりする必要があるでしょう。

クレーム対応を長引かせたり、お客さまの怒りを必要以上にヒートアップさせないためには、初期対応の「ほんのひと言の気遣い」が大切なのです。

『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このほか、近年急増するモンスタークレーマーの“終わりなき要求”を断ち切る23の技術を、会話術から法律知識まで余すところなく紹介しています。

ぜひ、日々のクレーム対応に使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。

(参考記事)
洋菓子店3200店にクレーム“1万2000回”。
超モンスター級の常習犯を生んだ
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