100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に発売前から需要が殺到している。
本記事では、恐るべき常習クレーマーの事例から、クレーム担当者が必ずおさえておかなければいけない事柄を特別公開する。(構成:今野良介)

【サービス向上→クレーマー増加】
という図式

「お客様は神様」「クレームは宝の山」というお客様第一主義の考え方は、今も多くの企業に浸透しています。たしかに、クレームは、サービス向上や商品開発に役立てられることもあります。

しかし、企業が目指す「顧客満足」を逆手にとって、やりたい放題のクレーマーがいるのも事実です。むしろ、企業努力によって商品の性能やサービスが向上し、世の中が便利になればなるほど、消費者の期待値が上がり、クレーマーが増殖するの図式があるのです。

たとえば、保証期間が過ぎた製品を無料で修理させようと、メーカーにくってかかる人は少なくありません。

「購入してからまだ10年なのに、スイッチが入らなくなった。大金をはたいて買ったんだから、そちらの責任で修理しろ!」

「待たされる」ことに過敏な人も増えています。

「いつ商品が届くんだ?明後日だ?今どき、そんな商売は通用しない!」

あるいは、正論で店員を叱責する「紳士」もいます。

「釣り銭はトレイに置きなさい。お札はきちんと表裏をそろえるのが礼儀だ!」

これはスーパーやコンビニなどのレジで見かける光景です。高級ホテルでの会計ならいざ知らず、レジ待ちの行列ができている商店では通用しない、過剰要求でしょう。

こういうような現場を経験すると、「お客様は何様ですか!」と、思わず叫びたくなることもあるでしょう。ホスピタリティに慣れすぎた消費者が「行き届いたサービス」を求め、モンスター化するケースはあとを絶ちません。

「お客様第一主義」の呪縛

そうした流れに対処しようとする企業も現れ始めています。コンビニやファミレス、ファーストフード業界では、一部の店舗で24時間営業をとりやめています。また、宅配便では、大手企業が率先して時間帯指定の配達の再検討に乗り出しています。

こうした見直しは、人手不足や過重労働問題などの解決策の一環ですが、言い換えれば、顧客に利便性を訴えるだけでは、企業として立ち行かなくなったのです。クレーム対応においても、従来の「お客様第一主義」だけでは担当者の身がもちません。

私は、警察官から民間流通業の渉外担当者に転身してまもない頃に、しつこいクレーマーを前にして、進退窮まる状況を経験したことがあります。

警察では、傷害・暴行、恐喝・窃盗など、「刑法に触れるかどうか」で、クロかシロを判断すればよかったのですが、クレーム対応では、そうはいきません。いくら理不尽なことを言われても、あくまで相手はお客様だからです。クレーマーに対して、警察官時代に身につけた逮捕術は役に立ちません。かといって、つたない接客術でその場を切り抜けることもできませんでした。

しかし、ある日を境に私は変わりました。そのときの情景はいまでも忘れません。

食品への異物混入を訴える高齢男性のクレームに対応したときのことです。私は男性の自宅を訪れ、板の間に正座しました。

男性は、

「責任をとれ!」
「誠意を見せろ!」
「オマエのようなやつは死んでしまえ!」

などと、私を罵倒し続けたのです。

私は、ひたすらお詫びしていました。
時間だけがむなしく過ぎていく中で、茫然自失の状態でした。
しばらくすると、男性が私の額を小突いて、こう言い放ちました。

「おまえじゃ話にならん! 出て行け!」

その瞬間、私は我に返り、お客様第一主義の「呪縛」から解き放たれました。

「そうですか。それでは失礼します」と丁寧に断ったうえで男性宅から退出しました。
そして、その翌日、男性に電話をかけました。

「申し訳ありませんが、商品を交換したことで、私は誠意を尽くしていると思っています。これ以上の要求をされるのであれば、警察・弁護士とも相談のうえ、対応させていただきます」

受話器の向こうからは、「もうええ。なかったことにしてやる」という声が聞こえました。

私は、この経験をきっかけに、明らかに度を超えたクレーマーには、毅然とした対応をしなければならないということを学んだのです。

恐るべき「常習クレーマー」の事例

大衆モンスターの中には、悪質な「常習犯」も見られます。

洋菓子店3200店にクレーム“1万2000回”。<br />超モンスター級の常習犯を生んだ<br />「小さな成功体験」とは?きっかけは、1つのケーキだった。

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