「うまく書けない」「時間がかかる」「何が言いたいかわからないと言われてしまう」――文章を書くことにストレスやコンプレックスを感じている人も多いでしょう。しかし、「文章を書く」は重要なビジネススキルの1つです。文章力は社会に出てからも磨いていかなければいけないものです。そこで、新刊『人一倍時間がかかる人のためのすぐ書ける文章術 ムダのない大人の文章が書ける』から、すぐに書けるようになる技術を紹介していきます。

現代人は文章力を高めておいたほうがいい理由

 文章力はほかでもない現代に必須の能力であると感じます。

 かつてはビジネスでもプライベートでも連絡手段といえば電話でしたが、それがあっという間にメールに置き換わりました。顧客や取引先の顔を見ないまま、メールだけで仕事が進むのも珍しいことではありません。

 画像や動画中心のメディアが隆盛ですが、一方、Twitterなどの文字情報中心のメディアにも人気があります。新聞を読む人は減ったといわれますが、それはインターネット上のニュースに切り替えた人が多いのであり、結局は文章でニュースに触れているわけです。

 テレビ番組の内容を書き起こし記事で確認するという人もいます。動画の場合、一定の時間、画面の前に拘束されることになりますが、活字の場合、関係ない部分を読み流しながら、自分にとって重要な部分だけを吸収できるからです。結果として短時間で情報収集ができます。忙しい現代だからこそ、自分のペースで情報を得られる文字メディアの価値が高まることでしょう。

 だからこそ、現代人は文章力を高めておいたほうがいいのです。

文章を書くのに、苦手意識を持つ必要はもうない!

 私たちは大人になるにつれ、さまざまな能力を身に付けていきます。年を重ねるにつれ、自然にできるようになることもありますが、「文章を書く」という点に関しては、強烈な苦手意識を抱え続ける人も多いのではないでしょうか。

・文章をうまく書けない。
・とにかく書くのに時間がかかる。
・書こうとすると疲れる。気が重い。
・何が言いたいかわからないと言われてしまう。

 こうした悩みをよく聞きます。

 私は以前、社会人向けの通信講座を多数開講している産業能率大学 総合研究所で、「文章力を磨く」という講座のテキストを執筆しました。この講座は、多くの講座の中でも五本の指に入るほどの人気なのだそうです。企業が若手の研修課題に指定する例もありますが、何を受けるか自由に選べる企業でも、「文章力を磨く」を選んで受講する方が多いそうです。これもまた、大人になっても文章に苦手意識を持っている人が多い証と言えるでしょう。

 現在、学校の国語教育は「読む」一辺倒から「読む・書く・聞く・話す」に移行しつつあります。それでもなお、「書く」ことについての教育は不親切であると感じます。

 作文や感想文、小論文などを書かされる機会があるにしても、「どのように書けばいいのか」をほとんど教えられないまま、いきなり書けと言われてしまうのです。

 原稿用紙3枚はどうやったら埋まるのか、どうしたら説得力がある文章になるのか。

 そうしたことを教えられずに、とにかく「原稿用紙3枚分書きなさい」と言われるので、どうしていいかわからず途方に暮れてしまう子どもが出るのです。文章構成の概念もないままに、規定字数を埋めるために、ひたすら何かを書き、何となく仕上がっている、というパターンが多いと思います。

 上手な子が先生から褒められたりコンクールで賞を取ったりしますが、この子の文章は具体的にこういう点で優れているという技術的な分析はあまり紹介されません。

 したがって、うまくいった当人にも周囲にも、書き方のノウハウが蓄積されないのです。単に「あの子はすごい」「自分のはダメだったんだ」という人の問題で終わってしまうわけです。

 賞などに選ばれた子は「自分は文章が得意だ」という自信を得るので、それからも積極的に書いていくでしょう。それでどんどんうまくなっていきます。一方、選ばれなかった子は、文章に関して苦手意識を持ち、書くことを敬遠しがちなので、そのままの力で大きくなってしまいます。それで差が開いてしまうのは、もったいない限りです。

 多くの人にとって必要な実用的方面の文章力は、意識的に技術を学ぶことで、後天的に誰でも身に付けられるはずのものなのです。

 文章技術の習得は数学学習に似ています。

 数学ではまず、公式がどう成り立つのかを証明で理解し、公式を覚え、それを使用する簡単な練習問題を解きながら身に付けます。その後、応用問題に挑戦します。

 この学びの順番を文章を学ぶことにも応用すればいいのです。

 効果的な文章技術を理解し、公式化し、それを簡単な練習問題で定着させ、実生活の文章作成に活かす。得意な人も苦手な人もいるでしょうが、こうしたサイクルで一歩一歩学んでいけば、文章力は身に付かないはずがないのです。

 本書は、こうした順序で文章の基礎や実践的テクニックを学んでいただけるよう、解説を組み立てました。本文解説を読み、「読んでみよう」「書いてみよう」といった練習問題に取り組んでいただければ、文章作成のコツが身に付きます。そして、意識的に会話に取り入れることで、会話も文章も上手になっていきます。

文章力を活かせば、仕事を効率化できる

 文章のうまい人はやはり、アウトプットの量が多いです。インプットも大切なことですが、それ以上にアウトプットが重要です。

 私は受験生時代、通信添削を利用して学習していました。今思えば、添削の指摘を読んで学ぶ以前に、添削をされるという緊張感のもと、工夫して答案を作成し、推敲を重ねて練り上げるという過程自体に学力の伸びるチャンスがあったのです。

 見られると想定して文章を書くことを繰り返すと、自分の文章を客観視できるようになります。客観的に見て、いいところを伸ばし、悪いところを直せば、文章は確実にいいものになります。文章のうまい人はアウトプットを繰り返しながら、どんどん上手になってきたのです。

 もちろん、インプットも重要です。本や新聞を読むというインプットは、語彙や文体の基盤を作ります。しかし、同じ本を読むにしても、書く習慣がある人とない人とでは、まなざしが違うのです。

 もしミュージシャンが他のミュージシャンのライブに行けば、曲の構成や音響設備、照明の使い方などの演出を「こういうやり方があるんだ」「自分ならこうするな」などと、自分事と捉えて観察するでしょう。それと同じです。文章を書く人は、文章の読み方が変わり、一つの文章から学び取れることが多くなるのです。

 そういえば昔、音楽の先生が腹式呼吸のコツを教えてくれたことがあります。まず吐き切ること、吐いて吐いて肺を空っぽにすることだ、と。吐き切れば、あとは力を抜くだけで自然と息が肺に入ってくるので、吐くほうに意識を向けましょう、と。

 文章も同じで、まず書いて書いて書き切ることです。そうすれば、自分に足りないもの、学びたいことについての本を自然と手に取るようになります。

 文章の力を身に付けると、レバレッジが効きます。

 文章自体に説得力があるなら、暑い中の外回りの営業も要らなくなるかもしれません。昨今、在宅勤務の制度が広がっていますから、メールのやり取りで、仕事を的確に進められるなら、満員電車や遠距離通勤を避け、自分のペースで仕事ができるかもしれません。

 文章力を活かせば、仕事を効率化できるのです。

 読者の皆さんが、文章を自由に書けるようになるだけでなく、文章力を通じて仕事や人生の自由度を高められるようになること。それを究極の目標として本書を執筆しました。

 ぜひ文章力という自由の翼を手にしていただけたら幸いです。