子どもが「生き物」に興味を持ったら、成長のチャンス!

――生き物は、そういった自由な考え方を身につけるのに役立つのでしょうか?

今泉先生:はい、とても有効だと思います。一時期、動物園や水族館の入場者が増えたことが話題になりましたが、これはとても良い傾向だと思います。子どもは実際に生き物を見ると、「どうしてカワウソは水の中で暮らすようになったのだろう?」とか「なぜレッサーパンダは立つんだろう?」といったことを考え、自分の中でいろんな説を立てます。そうしてそれが合っているか調べる。その過程で、違う説がたくさんあることを知ります。実はこれがとても重要なんです。大人になって社会に出たとき、物事を客観視し、いろいろな説を受け入れられるようになる非常に安定した考え方ができるようになるんです。

――生き物について学ぶためには、子どもにどのような経験をさせるのがよいのでしょうか?

今泉先生:本で学ぶことは非常にいい経験だと思います。タブレットではダメ。というのも、ページをめくるという行為は、脳と密接につながっているからです。

 実は、この“めくる”という作業は人間にしかできないもの。チンパンジーは紙を破いてしまうんです。それくらい指先の感覚とは繊細で、だからこそ脳に強い刺激を与えます。また私たちは、読んだ本について、どのあたりに何の情報が載っているか、何となく覚えていますよね。そして目指すページを、指でパッと開くことができる。これはコンピュータにはできないことなんです。コンピュータは、常に1ページ目から探していって見つけるだけ。だから目当てのページを開くのは人間のほうが速いほど。私たちは、ページをめくって読んで理解する、という一連の行為で脳の「検索力」を鍛えているのです。

 本は、人間の脳を想像以上に鍛えてくれる。だから、とくに3~5歳の脳の成長期にある幼児は、あまりタブレットに触れないほうがいい。指先でおこなう作業を大事にしてほしいのです。

――電子書籍ではなく紙の本で読むということが大事なのですね。

今泉先生:ただし読むだけではいけません。本で得られるのはあくまで知識だけです。読んで得た知識は、外に出て実際に経験して合致させないと、机上の空論が生まれることもありますから。ですからこの『わけあって絶滅しました。』も、読んだ後、動物園や博物館に行って確かめるのがベストでしょう。

 それこそが本当の知識というものだと私は思っています。

いま、子どもが一番会いたい動物学者が語る「子どもが生き物に興味を持ったら成長のチャンス!」
今泉忠明(いまいずみ・ただあき)
動物学者
東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学ぶ。文部省(現文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境庁(現環境省)のイリオモテヤマネコの生態調査等に参加する。上野動物園の動物解説員を経て、東京動物園協会評議員。おもな著書に『野生ネコの百科』(データハウス)、『動物行動学入門』(ナツメ社)、『猫はふしぎ』(イースト・プレス)等。監修に『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)等。単独性でひっそり暮らし、厳しい子育てをする、チーターやヒョウ等のネコ科の動物が好き。

インタビューの後編は10月27日(土)公開予定です!