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連載経済小説 東京崩壊
【第27回】 2012年5月16日
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高嶋哲夫 [作家]

遷都

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第2章

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 閣僚たちが去りドアが閉まると、閣議室の空気がゆるみ、穏やかな流れとなった。

 残ったのは官房長官と、閣僚と入れ違いに入ってきた3人の秘書だけだ。総理は椅子に座ったまま、大きく伸びをした。

 「さあ、本音を話してくれ」

 総理は官房長官に向き直った。

 「地震から5日がすぎました。しかしまだ、避難所から帰れない被災者が多数います。大部分が揺れのため、自宅が全壊、半壊し、帰宅出来ない地区の人たちです。だが全半壊した家のほとんどは、行政の指導を無視して残っていた古い木造の壊れるべくして壊れた家です。写真を見ても分かります。マスコミはそういった地区を集中して取材し、ことさら被害を拡大して見せています」

 「最大震度6強だったな。これでは下町の古い住宅地は、かなりの被害が出てもおかしくはない」

 「予想通り、大田区、品川区などの古い住宅密集地に被害が集中しています。あの状況を連日見せられれば、多くの都民、いや国民全体に安心と同時に不安が広まるのは当然でしょう」

 「どういうことだ」

 「安心は歴史的に見ても、一度地震が起こるとしばらくは起きないだろうという気分的なものです。不安は東京は意外と災害に弱かったという事実によるものです。しかし、この不安の方は、ますます増大することにもなりましょう。マスコミの煽りやすい部分です。連日、テレビや週刊誌で東京の脆弱性を騒ぎたてています。何か手を打たないと、まずいことになります」

 先の原子力事故がその通りだった。一度火がついた不安はマスコミに煽られ、より大きく拡大するのみだ。一つの原発の欠陥原子炉が、国内すべての原発に置き換わってしまった。科学的な考え方など感情に押し流されてしまう。

 「中でも一番の懸念材料は、あの程度の地震で東京の機能が数日にわたって麻痺したことです。電力、ガス、水道などのインフラ、交通網、通信システムの停止です。予想はしていましたが、これほど拡大し、長引くとは思っていませんでした。そしてそれが、日本中に少なからず影響を与えたという事実です。株価や為替にも影響が出ました」

 確かにその通りだ。アメリカ大統領が危惧しているのもそのことだ。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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