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連載経済小説 東京崩壊
【第26回】 2012年5月14日
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高嶋哲夫 [作家]

新日本改造研究会

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【前回までのあらすじ】
森嶋は長谷川や早苗らが製作した新首都の模型を見せられる。それは、シンプルで機能面ばかりを押し出した町で、東京とはまったく違う印象の町だった。日本には、もっと合理性と機能性を持った首都が必要なのではないかと問う長谷川に、森嶋は答えることが出来なかった。
村津は、世界が認める災害に強い首都をつくることが肝心だという。
移転場所は自然災害からの安全性を第一に考えなければならない。東京とはテレビ電話で結び、人の移動を極力減らし、必要な場合は飛行機とリニアモーターカーで行き来すれば距離的ハンデも克服できると持論を語った。
村津、早苗、森嶋は2時間ほどで長谷川の事務所をあとにした。
その後、村津は官邸に呼ばれているからと1人でタクシーに乗り行ってしまう。早苗は食事でもしていきましょうかと森嶋を誘った。

森嶋と早苗は近くの居酒屋に入った。早苗は速いピッチで飲み続けた。飲むにつれて饒舌になっていく。国交省を退職後、村津はかなり落ち込んだらしい。しかし、2011年3月11日の東日本大震災が村津を変えた。村津家では、祖母と母、おじさんが亡くなったという。震災後の政府の迷走ぶり、いつまでたっても復旧すら進まない状況を見て、村津はがぜんやる気を取り戻した。自分ができることは首都移転を完成させて、次の災害に備えることだと考え直したのだ。森嶋は早苗の話を聞いて、どこか達観したところのある村津の言動が、わずかながら理解できたような気がした。

その後、森嶋は早苗と別れて、国交省に戻った。
入口を入って廊下を歩き始めると背後から声をかけられた。振り向くと、国会議員で首都移転チームにも参加している植田が立っていた。森嶋は植田に誘われてタクシーに乗る。向かったのは雑居ビルの中にある中華料理屋だった。
植田は、いちばん奥にある個室の前に立ち止まりノックをした。中に入ると与党民友党の政調会長の大野忠正衆議院議員と2人の議員が座っていた。続いて2人の男が入ってきた。1人は野党第一党の自由党重鎮の殿塚肇。もう1人は大学教授で政治学専門の葉山慎二だ。
森嶋が連れて行かれたのは超党派の会合だった。村津が大野議員に森嶋のことを推薦し、植田がセッティングしたのだ。
殿塚は、森嶋がハーバードに留学しているときに書いた2つの論文を読んでいた。両方の論文とも小さな政府を目指し、地方独自の発展を促し、新しい日本を造り上げようという考えを述べていた。それは、とても現役のキャリア官僚が書いたとは思えない内容だった。道州制の実現を目指す殿塚は、森嶋に深々と頭を下げ協力を依頼する。「私に出来ることならば、喜んで協力します」と森嶋は思わず答えていた。

 

第2章

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 政治家たちの話を無言で聞いていた葉山が口を開いた。

 「道州制、首都移転によって、我々はアメリカ型の小さな政府を目指します。その政府は、主に外交、防衛、通貨、その他国家がらみの政策、日本が進むべき方向の決定に全力を尽くします。地方のことは地方に任せてね」

 葉山は大学教授らしい落ち着いた口調で話し始めた。

 「アメリカは日本に対して、国土面積で25倍、人口で2.5倍の大国です。しかし、上院100人、下院435人。その議員数でアメリカ国内をまとめ、世界の大国としての役割を果たしています。ところが、現在日本は衆院480人、参院242人の議員がいます。多すぎると思いませんか。そのため、多くの混乱も生じています。数は力なりと公言する議員さえいる始末です。能力のある少数の政治家集団のほうが、無用な混乱をさけることが出来ます。道州制と首都移転は、国会議員の定数半減、国家公務員の削減にも役立ちます。我々は衆議院定数200人、参議院は50人に減らすつもりです。議員定数の削減は、国会の規模も大幅に縮小出来るし、議員宿舎等の問題解決にもつながります。これは首都移転にも大いに都合がいいはずです。しかし、公務員数の縮小は現時点では考えていません。行政の業務量は当分は増えるでしょうから」

 森嶋が国交省に入ったころ、超党派国会議員の「道州制を実現する会」があったのを記憶している。だが、日本では夢物語だというのが森嶋の本音だった。国民は保守的すぎるし、東京への思いが強すぎる。特に都民はそうだ。

 そして何より葉山の言葉通り、地方分権を進め、中央政府、省庁の権限と規模を小さくする話なので、政治家と官僚の反対は目に見えていたのだ。強力な指導者が必要だが、現れそうもなかった。しかしアメリカで政治機構を勉強すると、日本の進むべき姿が見えてきたような気がした。過去を継承するだけでは未来はない。

 この話をひと月ほど前、アメリカから帰ったときに聞かされたのであれば、納得はしても記憶には残らなかっただろう。だが今は、ずっしりとした重みを持って受け止めざるを得ない。この数日で、日本を取り巻く状況は大きく変わった。

 「新日本改造研究会とは、具体的には何をする組織ですか」

 「言葉通りですよ。日本を改造し、新しい日本を造る。つまり、県をまとめて道州制に移行する」

 葉山はそうでしょうという顔で森嶋を見つめている。 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


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