あなたは、今まさに接客サービスの世界に足を踏み入れた人でしょうか? それとも、接客サービスの仕事をはじめたけれど、少し行き詰まりを感じているところでしょうか? または、あなた自身はオーナーか店長でスタッフの指導育成に悩んでいるのでしょうか……。そんな方には、本連載がきっとお役に立ちます。11月7日に『これだけできれば大丈夫!すぐ使える!接客1年生』(ダイヤモンド社)を上梓した著者の七條千恵美さんは、元JALのカリスマ教官。七條さんいわく、接客の本質とは「あなたを大切に想っています」「感謝しています」「歓迎しています」「敬意を持っています」という想いを感じていただくこと。お客さまの「イラッ」「モヤッ」をなくすこと。それが、接客の基本中のキホン。お客さまに信頼され、リピーターが増える接客のキホンをやさしく解説する連載です。

「何のためにやるのか?」を理解していないと<br />上滑りした接客になる

 

独りよがりな接客は、クレームになりかねない

 「接客で大切なことはなんでしょう?」

 という質問をされれば、多くの人が迷わずに「笑顔!」と答えることができるでしょう。

 では、このような質問だとどんな答えが返ってくるでしょうか?

 「笑顔を見せることで、かえってお客さまを怒らせてしまったり、違和感を持たれてしまう状況とはどんなときでしょう?」

 接客に笑顔が大切であることは間違いないのですが、笑顔がすべてを解決するわけではありません。それを理解していない接客スタッフは、ご迷惑をおかけしたり、ミスをしたにもかかわらず謝罪をしながら笑みを浮かべてしまいます。

 また、お客さまが辛かったご経験や大変な思いをしたという内容の話をしているにもかかわらず、それを満面の笑みで頷きながら聞く……、などというのは違和感があると思いませんか?

 このようなチグハグな対応は、相手の気持ちや状況を想像する力が欠落しているために起こります。

「相手があってこそ」のサービス

 先日、居酒屋でこのようなことがありました。その居酒屋のスタッフさんからは「良い接客をしたい!」「元気な接客をしたい!」という前向きな気持ちを感じ取ることができました。その気持ち自体は素晴らしいのですが、結果としてそれが「お客さま不在の独りよがりな接客」であったことは否めませんでした。

 その日集まったのは、女性の友人10名ほど。

 久々の再会にスタートから話に花が咲いていました。ところが、元気の良すぎるスタッフさんたちが料理を運んでくるたびに、その大きな声のせいで楽しい話が中断するのです。また、善意の冗談であることは理解しつつも、何度も内容がいまひとつのユーモアを挟んでくるため(笑)、毎回、その相手をしなければならないめんどくささを感じてしまいました。

 笑顔も元気な接客もユーモアも、それ自体は決して悪いものではなく、むしろ大切なことですし、「お客さまに良い印象を与えたい、喜んでもらいたい」というプラスの気持ちは評価に値します。

 ところが、使い方・使う相手・使う状況を間違えると、それは一気にマイナスな印象となりクレームになることもあるのです。何がお客さまの怒りに繋がり、何が違和感を覚えさせているのかといえば、「お客さま不在」で相手を見ていないということです。

 なぜ、笑顔でいる必要があるのかといえば、表情で「感謝」「歓迎」「好意」「親しみやすさ」というメッセージを伝えるためです。

 ところが、お詫びのシーンでの笑顔は「ごまかしている」「真剣さに欠ける」「笑えばいいと思っている」という印象にしかなりません。謝罪のときに表情から届けるべきは「心から申し訳ないと思っている」というメッセージです。

 元気のよい接客は「働く喜び」「お客さまへの感謝と歓迎」「活気のあるお店」を演出するためのものです。お客さまへ向けた冗談は「楽しい時間の提供」です。

 しかし、それが本当にその目的を果たしているのかを、しっかりと見定める必要がありますよね。

 「接客にはこれが必要、それが大事」と世間でいわれていることを鵜呑みにして闇雲に試すのではなく、「何のためにやるのか?」、そして、その成果を得られているのかということにフォーカスしましょう。

 また、どれもこれも「相手あってこそ」という基本を忘れてはなりません。

 スタッフ同士で盛り上がるのではなく「お客さまありき」です。せっかくのやる気や前向きな姿勢が裏目に出てしまうのはもったいないですからね!

【今回のポイント】
 「良かれ」と思った接客が本当に喜ばれているのか、
 状況に即しているものなのかを考えよう。

七條千恵美(しちじょう・ちえみ)
株式会社GLITTER STAGE 代表取締役
1973年京都府出身。同志社大学卒業後、日本航空に入社。
お客さまから多くの賞賛をいただき、さらに際立った影響力を持つ客室乗務員として「Dream Skyward優秀賞」を受賞。取締役から表彰を受ける。また、TOP VIPフライトの中でも最上級ハンドリングのフライトであった皇室チャーターフライトのメンバーに抜擢された経験を持つ。経営破綻後の2010年より2年間、客室教育訓練室のサービス教官として約1000人以上の訓練生を指導し、多くの優秀なCAを輩出。
教官としての会社評価は、評価最上位に該当するS評価を受けるなど教官としても数々の実績を残す。サービスマインドの強化と身だしなみの授業は評価が高く「気づきの女王」「身だしなみ隊長」と呼ばれる。
現在は、株式会社GLITTER STAGEの代表取締役として接客マナー研修や社員教育などで全国を飛び回る。
「強い牽引力とわかりやすさ」には定評がある。主な著書に、『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社)がある。