まるで高齢者の「姥捨て山」のよう
家族に見捨てられた患者で溢れる病院

「高齢者が次々に入院し、まるで姥捨て山のように置いていかれる」――。

 看護師らがため息をつく。これは地方や過疎地で、医療機関や介護施設などが少ない地域に住む“医療難民”や“介護難民”の話ではない。病院などがひしめく東京で起こっている現実なのだ。

 筆者が取材した看護師によれば、彼女が勤める病院には、高齢者が寝たきりになり、肺炎などを患って繰り返し入院してくるという。しかし入院中、家族は見舞いにも来ない。止むなく退院間際に看護師が家族に電話をかけても、「もうしばらく入院できないか」と、迎えにも来ないケースが目立っている。

 都内のある民間病院では、「退院しても、状態が悪化して再入院すると家族がホッとしているようなフシがある」と明かす。同じく、都内のある自治体病院でも、「退院が決まっても、家で看られない家族から、患者の入院引き伸ばし作戦に遭う」と話す。

 70~80代夫婦による老々介護・看護で止むを得えない場合もあれば、子どもがいても働いているため世話をできないケースもある。転院や施設への入所が必要な場合でも、家族は「あの病院は家から遠い」「あの施設は汚い」など難癖をつけ、なかなか患者を引き取らないというのだ。「この病院にもっと置いてくれないか」という相談が後を絶たず、なかには、連絡がつかなくなった家族もいるという。

 団塊世代が一斉に後期高齢者になり、人口全体の5人に1人が75歳以上となる、いわゆる「2025年問題」が迫っており、高齢世代をどうやって支えるかが火急の課題となっている。戦後1947~49年生まれの団塊世代のボリュームは、約660万人と膨大だ。彼らが後期高齢者となれば、当然、医療を頼りにするケースも増えるだろう。

 しかし、その子ども世代となる団塊ジュニアやそれ以降の層は、就職氷河期のなかで社会人のスタートを切り、自身の生計を立てるだけで精一杯の生活。一方で頼みの病院では、急増する高齢患者に対して人手が不足していることから“医療崩壊”が始まり、病床削減も起こっている。