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香山リカの「ほどほど論」のススメ
【第30回】 2012年5月28日
著者・コラム紹介バックナンバー
香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

フレッシュ・シーズンの読書特集
人は「○○するな」より
「○○しなさい」といわれたい

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自分にだけ効く処方箋がほしい

 「売れてるビジネス本」を読んでみようということで続いている読書特集ですが、一つ肝心なことを忘れていました。それは、「誰が書いたか」「何が書かれているか」と並んで大切な、「誰が読むのか」についてきちんと分析していなかった、ということです。

 前回まで、基本的に「成功者」によって書かれていること、そして、そこに書かれた経験談を一般化して読者がそのまま鵜呑みにするのは危ういことを話してきました。

 なぜ、私が「個別の経験を一般化してよいのか」にここまでこだわるのかというと、それは本職と関係しているかもしれません。

 最近、私がいる医療の世界では「エビデンス(科学的根拠)に基づいた治療」というのが常識になっていて、いくら私が「これまで重症のうつ病の患者さんを5人、薬を使わず長時間のカウンセリングだけで治したよ」といっても、「それはただそういうケースもあったというだけで、エビデンスじゃないでしょ」と誰も聞いてくれないのです。

 そこで「カウンセリングは行わず薬だけで治療したグループ」や「両方を用いたグループ」と比較して、「カウンセリングだけ」のグループの改善率が統計的にも高いと証明された場合のみ、医者は「うつ病に薬は不要、大切なのはカウンセリング」ということが許されているのです。

 もちろん、それは学術論文の話であって、医者が一般の読者に向けて本を書く場合には、「切らないほうが盲腸は治る(注:これはデタラメ)」「女医もやせた! 肉まんダイエット(注:これもデタラメです)」といった表現もある程度は許されます。

 とはいえ、まったくエビデンスにもならないような特殊な経験談のみによって構成された医療本は、やっぱり「あれはちょっとね……」というふうになってしまうでしょう。

 私の場合、いわゆる「健康法」のような本を書くことは少ないのですが、それでも自分の経験談を過剰に一般化しすぎないように、でもエビデンスにこだわりすぎて一般の読者の興味とかけ離れた内容にならないように、とこれでもバランスに気をつかいながら原稿を書いています。

 だから余計に「私はこうやったら成功した。だからあなたもこうしなさい」といったメッセージが強く感じられる本が、気になってしまうのかもしれません。

 とはいえ、いくら著者が「私のようにやりなさい」といったとしても、読者が「あなたはそれでたまたまうまくいったかもしれないけれど、みんながそうなるわけじゃないでしょう」と冷めた目で見ていれば、そういう本が売れることもないでしょう。

 しかし、著者の魅力と読者のニーズが合致すれば、「私はこうして成功した」といった類いの本が10万部、20万部という大ベストセラーにもなります。

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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


香山リカの「ほどほど論」のススメ

好評連載「香山リカの『こころの復興』で大切なこと」が終了し、今回からテーマも一新して再開します。取り上げるのは、社会や人の考えに蔓延している「白黒」つけたがる二者択一思考です。デジタルは「0」か「1」ですが、人が営む社会の問題は、「白黒」つけにくい問題が多いはずです。しかし、いまの日本では何事も白黒つけたがる発想が散見されるのではないでしょうか。このような現象に精神科医の香山リカさんが問題提起をします。名づけて「ほどほど」論。

「香山リカの「ほどほど論」のススメ」

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