かつて小泉内閣が「貯蓄から投資へ」の方針を打ち出してから18年たつが、個人金融資産に占める株式の比率は一向に増えていない。証券業界として、この難題にどう取り組むのか。日本証券業協会の鈴木茂晴会長に聞いた。

日本証券業協会の鈴木茂晴会長Photo by Kazutoshi Sumitomo

──政府や証券業界が長年掲げてきた「貯蓄から投資へ」の取り組みは、最近は「貯蓄から資産形成へ」と言い換えていますが、いずれにせよ一向に進みません。

「貯蓄から資産形成へ」は証券業界にとって大きな課題の一つですが、なかなか進展していないのが現状です。いまだに日本では個人金融資産約1800兆円の半分以上を預貯金が占めており、有価証券は10%台にすぎません。

 当協会で昨夏に証券投資に関するアンケート調査をしたところ、「証券投資は必要とは思わない」と答えた人が実に75%に上りました。証券業界の100年の計を考えれば、投資に関心がない若い人たちにも株式投資による成功体験を持ってもらう必要があります。

 その意味で期待しているのは2018年1月から始まった「つみたてNISA」です。多くの証券会社では1000円程度の少額から始められるので、若い人などが投資を始めるきっかけになるでしょう。実際、約69万口座(18年6月末時点)のうちの約7割が新規客という結果になっています。今後も引き続き、業界全体で普及に力を入れていきます。

──投資家層の裾野拡大の他にはどんな課題があるのでしょうか。

 一つ目の課題ともつながるのですが、証券会社は非常に厳しい規制があるにもかかわらず、いまだに株屋のイメージが強く残っていることです。それを払拭するためにも、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の推進を積極的に行っています。

 証券業界の特徴の一つは、ファンディング機能を持っていることです。投資を通じた社会貢献としてグリーンボンド、ワクチン債などを販売できる。また、女性の活躍支援についても、働き方改革をどんどん進めることで、証券業界をどこよりも女性が活躍できる業界にしたいと思っています。

──ところで、鈴木さんが大和証券グループ本社の社長時代に三井住友フィナンシャルグループとのホールセール業務の合弁を解消して今年で10年がたちます。当時の経営判断をどう振り返りますか。

 三井住友銀行に限らないでしょうが、銀行との対等合併というのは難しい。提携解消後、厳しい時期もありましたが、独立系の証券となったことで、社員のモチベーションは高まりましたし、非常にハッピーだったと思っています。

──三井住友トラスト・ホールディングスとの合併観測も一部でささやかれていますが。

 それは100%ないです。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)