モーター大手の日本電産が米中貿易摩擦の影響で業績予想を下方修正した。売り上げが急減する最中、永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は週刊ダイヤモンド編集部のインタビューで何を語っていたのか。詳細をここに再現する。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)

下方修正の日本電産、永守会長が語った米中貿易戦争下の投資戦略ながもり・しげのぶ/1944年生まれ、京都府出身。67年職業訓練大学校電気科卒。73年に京都市内の自宅で日本電産を創業。以来、オーナー社長として事業を拡大。2020年度の売上高2兆円計画を確実にする中、18年6月に創業以来初の社長交代を行い、現職。社長兼最高執行責任者(COO)に就任した吉本浩之氏に権限移譲を進めている。
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 日本電産は1月17日、米中貿易摩擦の影響で2019年3月期の業績予想を下方修正し、6年ぶりに減益になると発表した。従来の増収増益予想から、純利益を前期比14.4%減の1120億円(従来予想1470億円)、売上高は同2.6%減の1兆4500億円(従来予想1兆6000億円)の減収減益予想へと引き下げるものだ。

 中国企業の受注減などで昨年11月と12月の2カ月の売上高が急減したのが要因で、永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は同日の会見で「変化は尋常ではない」と危機感を露わにした。その実績をベースに「1~3月期は一番悪い数字になると想定して業績予想を作った」という。

 永守会長は「この変化を甘く見てはいけない」としながらも、「それでも経営の方向性を変更する気持ちは全くない」と強調。「新しい工場の投資は10年計画だ。今日の段階で、それを見直すことはない」と強気の姿勢を崩さなかった。欧州の工場の統廃合などの構造改革費用も下方修正の要因になっている。

 週刊ダイヤモンド編集部は米中貿易摩擦が過熱してきた昨年11月末に永守会長にインタビューしていた。米中貿易戦争下に、世界各地の工場をどう再編するのか。変えずに貫く「経営の方向性」とはどんなものなのか。詳細をここに再現する。

――日本電産は18年度中に200億円を投資して、中国で生産する自動車・家電用部品の一部をメキシコに移管する計画です。米中貿易摩擦で、世界拠点の再編はどんな影響を受けますか。

 米中問題があったから中国の工場をメキシコの工場に移すという報道がありましたが、そんな単純な話ではありません。米国のお客さんが、中国からモノを出すと関税がかかって困ると言うのでメキシコ工場を増設しますが、うちは世界の工場のどこからでもお客さんが望む場所から出荷できるので、それに応じただけ。

 地産地消を世界中で進めている中での話で、米中問題が起きたから慌ててそうしたわけではない。現に中国の工場は、中国の内需のためにどんどん投資していて、メキシコ以上に増強するつもりです。

――中国では平湖(浙江省)に建設した新工場で、電気自動車(EV)の駆動用に使うトラクションモーターの出荷が5 月から始まります。それを含めて中国の工場の増産は、どのくらいの投資になりますか。

 中国での投資額はこれから1000億円単位で必要になるでしょう。トラクションモーターの工場への投資が大きいけれど、それだけではありません。車載関係では電子制御ユニット(ECU)の工場を作らなければいけないし、(ロボット部品用の)減速機の工場、新しいスマートフォン用の部品の工場など、いろいろな新しい投資があります。

――欧州市場の増強は?欧州で企業買収を繰り返してきましたが、重複した拠点の統廃合も課題です。

 欧州でも車載用の部品や減速機の地産地消を進めています。ルーマニアに新工場を作りましたし、ハンガリーの工場も拡張します。ポーランドでもEV用のトラクションモーターの新工場を作ります。お客さんの要望に合わせて、ドイツで作っていたものをハンガリーに持っていくなど、やはりいろいろなことをやらなければいけないのが欧州です。

――1973年に創業し、90年代のパソコン市場の拡大でハードディスク起動装置(HDD)に使われる精密小型モーターで最初の成長を果たしました。もはやその成長は期待できません。永守会長は今後の成長に向けて、⑴EV、(2)産業用ロボット、(3)白物家電、(4)ドローンの4分野を「4つの大波」と表現しています。工場の増強でも、この分野に集中投資するのでしょうか。

 4つの大波の方向に事業を拡大していくので、それを増強していく。この方針は全く変わっていません。EVのトラクションモーターは中国の平湖で生産を開始するし、ポーランドとメキシコでも工場を新設します。

 あと、5G(第5世代移動通信システム)の世界もやって来る。それに関連する部品工場も増強しなければなりません。

 それと、パソコン用のモーターは落ちているのでフィリピンの工場は減速機に転換していますが、HDDはニアラインストレージという使われ方が増えていてタイ工場は増強します。

 つまりは、米中問題が起きたからどこか1カ所を移すという単純な話ではない。ビジネスポートフォリオがどんどん変わっているので、世界43カ国に分散している工場で再編をガラガラと進めているところなのです。