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連載経済小説 東京崩壊
【第33回】 2012年5月30日
著者・コラム紹介バックナンバー
高嶋哲夫 [作家]

地震に弱い都市

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第3章

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 インターナショナル・リンクCEOのダラスは、周囲の男たちに目を配りながら続けた。

 「私たちは企業の発表する情報を鵜呑みにして評価し、格付けを公表したのです。私たちの情報収集能力、さらに解析能力は未熟で、企業報告の偽造を見破れなかった。プロとして失格です。現在、私たちは国や企業からさらに多くの情報を収集し、綿密に精査して発表することに全力を挙げています」

 「日本についてもですか」

 「もちろんです。日本に関してもです。そうでなければ、次に来るのはさらに拡大された世界を巻き込むトラブルであると認識したのです」

 ダラスはトラブルという言葉を使った。誰しも財政破綻、世界恐慌という言葉は避けたいのだ。だが、同じことだ。

 「しかしながらあなた方日本人、そして日本政府は、自国については正しく理解しているとは思えません」

 森嶋は必死で頭脳を回転させた。理沙や優美子から聞かされた知識を総動員してダラスの話を理解し、次の言葉を探していた。

 「あなた方が日本に抱いてる危惧の第一は、日本が巨大な債務を抱える国であること。二番目は1000兆円を超える国債の暴落の心配です。そのショックは世界に広まります。三番目は、政府がそれらに対して有効な対策が打ち出せないこと。常にこの三つを上げています」

 ダラスは頷きながら森嶋の言葉を聞いている。だがこれから森嶋が言おうとしていることは、すでに十分に承知していることなのだ。その上であえて一つの決断を下そうとしている。

 「しかしながら、日本にはまだいくばくかの余裕があります。まず、日本には1400兆円の個人資産があることです。まだしばらくは、この金を借りればいい。二番目は1000兆円を超える国債所有者の90パーセントが、日本人であるということです。彼らは利ざやが目的の外国の投機ファンドのように、多少の変動では手放さない。三番目は、日本にはまだ税の上げシロが残されているということです。消費税は世界の先進国中最低です。倍は言うに及ばず、20パーセント、4倍までなら十分に耐えられます。こうしたことから、日本は国債返却につまずくようなことはありません」

 森嶋の言葉が終わると同時に、ダラスは大きく頷いた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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