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連載経済小説 東京崩壊
【第32回】 2012年5月28日
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高嶋哲夫 [作家]

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【前回までのあらすじ】
「新日本改造研究会」の会合の翌日、森嶋が目覚めて顔を洗っていると携帯電話が鳴った。送話ボタンを押すとロバートの声が聞こえてきた。日本の存亡にかかわる重大な問題について話しに来たという。ドアののぞき穴を見ると、そこにロバートが立っていた。森嶋は役所に休むと電話し、ロバートと車で帝都ホテルに向かった。
ロビー内の喫茶室に入ると、フロント前にユニバーサル・ファンドCEOのジョン・ハンターがいた。なぜ日本政府はハンターたちを野放しにしているのか。ロバートは危機意識がなさすぎると日本政府の対応を嘆く。数日前の地震がなければ、日本は大変な事になっていたとロバートは語り始める。
あの地震の日の翌日、ユニバーサル・ファンドは日本に対して経済戦争をしかけるはずだった。しかし、あの地震で状況が一変。東京では、銀行、証券会社、証券取引所までが機能を停止。その影響は日本全国に広がった。ハンターたちは、日本政府が彼らの意図を察して、地震を口実に金融機関を停止し、その間に対抗策を練っていると疑ったのかもしれないとロバート。しかし、計画を練りなおして再び動き出すだろうと予想する。
森嶋は考え込んだ。現政府に有効な対抗策が取れるとは思えない。ユニバーサル・ファンドが日本に来ていることすら、気にかけていないだろう。今はただ地震の対応に追われているだけだ。
ハンターたちが仕掛けるのはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融商品。CDSとは他人に生命保険をかけるようなもの。その人間が死ねば保険が入ってくる。そうなれば、保険金をかけた者の中には、相手の死を願う者が出てくるかもしれない。日本の死を狙って、世界のマネーが動き出しているとロバートは警告する。
しかし、彼らの資金がいくらなのか知らないが、日本国債を暴落させたり、日本の財政を破綻させるなど、そう簡単には出来るわけがないと、森嶋は高をくくる。
彼らは、日本人の心の弱みを巧みに突いてくるだろう。冷静さを保って、それを跳ね返すことが出来るのかとロバート。大丈夫だという森嶋に、ロバートは肩をすくめるのだった。

 

第3章

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 「今回の来日の目的はなんだ。俺にヘッジファンドのCEOと最高戦略責任者を教えて、今の言葉を伝えるためじゃないだろう」

 森嶋はロバートに改めて聞いた。

 「それも大切な目的の一つさ。お前の危機感を目覚めさせたかったが、失敗したらしい」

 いつも議論の最後は、冗談と笑いで終わるロバートの目が今日は笑みの片鱗すらない。

 「明日は中国だ。政府と企業の要人数人に会って、何ごともなければ国に帰る」

 フロントの前で談笑していたジョン・ハンターとアルバート・ロッジがエレベーターに向かって歩いていく。

 ロバートは2人がエレベーターに乗り込み、ドアが閉まるまで目で追っていた。

 「これからどうするんだ」

 森嶋は時計を見て聞いた。まだ10時前だが、すでに役所に行く気は失せている。

 「ドライブに付き合ってくれ。お前にとって新たな世界の幕開けだ」

 「やめてくれ、そんな芝居がかった言い方は。お前に言われると、背筋が冷たくなる」

 これは、本音だった。ロバートは時に遊び感覚でとんでもないことをしでかす。前回の2度の来日の時もそうだった。総理との通訳。ハドソン国務長官との出会い。今考えると、冷や汗が出る役割に引き出されていた。

 森嶋とロバートはホテルを出た。 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

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