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連載経済小説 東京崩壊
【第36回】 2012年6月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
高嶋哲夫 [作家]

すべてのわざには時がある

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第3章

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 森嶋はただ室山と玉井たちの話を聞いているだけだった。

 話がこれほど進んでいるとは思ってもいなかったのだ。

 横で早苗が彼らの言葉に小さく頷いている。

 「3年前から準備していたことだ。いずれ役に立つかもしれないという漠然とした理由だけでね。ここの3人の方たちは様々なアドバイスをくれた。そして出来あがったのが、あの都市模型だ。私は皆さんには感謝している」

 村津は森嶋から1人ひとりに視線を移していった。

 「村津さん、あなたは国交省を退官し、野に出られた。用意されていたすべての役職を断って、ご自分の思いを貫いてこられたのはこの時のためなのでしょう。まさに、すべての業には時がある、ということですな」

 室山がしみじみとした口調で言った。

 「どういうことですか」

 森嶋は早苗に身体をよせ、小声で聞いた。

 「聖書の言葉よ。父がよく言ってたの。天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある」

 「しかし始まりはこれからだ。総理の言葉は、単なるスタートの合図だ。問題は山ほどある。その一つ一つがエベレスト級のものだ」

 村津は決意を込めた口調で言った。

 「幹事会社は国になる。これから数年間は日本政府、すべての国民、企業が一つの目的に向かって歩まなければならない。日本に、まだ余力が残されている間にやらなければならないことだ。その中から、世界に強いメッセージも送ることができる。まさに平成維新と呼べるものだ」

 「反対勢力も限りなく出てくるでしょうな。地道な説得しかないでしょう。総理はやれるでしょうかね」

 「この事業は企業の利益など超えたところにあると思っています。今日から企業の枠組みを取り払って、新生日本の顔となるべき首都建設のために働くつもりです。そのための根回しは八分通り進んでいます」

 玉井の声には多少の興奮が混じり、強い決意が感じられる。

 森嶋は半ば唖然と、出席者たちのやり取りを聞いていた。同時に危うさも感じていた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

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「連載経済小説 東京崩壊」

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