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攻撃は最大の防御(その1)
H&Dに対する僕の戦略

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第8回】 2012年7月12日
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 「攻撃は最大の防御」とはよく言ったものだ。昔からよく聞く格言ではあるが、その背後にあるロジックは何か。極私的な体験を事例として、僕の考えを2回にわたって開陳したい。今回は前半の事例編である。

極私的二大問題:H&D

 防御の必要性が生じるのは、何かに攻め込まれているからだ。そもそも何らかの問題に追い込まれているとか、何らかの弱みを抱えているということがなければ、防御する必要もない。

 僕はとにかくユルい性格なので、だいたいの問題はやり過ごすようにしている。なんら防御の対策をとらないので、当然のことながら、そのまま攻め込まれて終わりとなる。何かを失ったり、達成できなかったりするわけだが、それはそれで仕方がない。僕のイージーでレイジーな生来の生き方である(Deep Purpleの”Lazy”は愛聴曲のひとつ。この歌詞、最高)。

 ところが、いよいよ問題が深刻となると、さすがに何らかの手を打たないと致命傷になる。僕にとって、この十数年来直面している二大問題が、H&D(ハゲ&デブ)のコンビ攻撃だ。H&Mだと何となくおしゃれな感じもするのだが、H&Dはシャレにならない。これに「チビ」が加わると一丁上がりで、DHC、親の満貫12000点レベルのオッサンの完成となるのだが、幸いなことに身長は自然と確保できた。僕に対する攻撃は、いまのところH&Dの二大問題にとどまっている。ただH&Dのコンビ攻撃だけでも子の満貫(8000点)クラスの打撃ではある。

 まったく関係ない話だが、サプリメントで有名な会社、DHCがDaigaku Honyaku Center (大学翻訳センター)の略だっていうこと知っていました?もともとは創業者が大学の研究室を相手に、洋書の翻訳委託業を始めたのがDHCの出発点だったそうだ(University Translation CenterでUTCとか言わないで、翻訳業なのにそのままローマ字でDaigaku Honyaku Centerというのがかっこイイ!さすが、大成功した企業家である)。

H攻撃

 話を戻す。H(ハゲ、と書ききってしまうとほのかに寂しい気分がするので、以下Hという記号で書く)の方からいうと、僕の頭髪は30代前半でかなり毀損していた(最近はやりのビジネス用語でいえば、頭髪の「カーブアウト」。ちょっと意味が違うかな?)。おそらく自分で意識する以前、20代のころからひそかにH攻撃は始まっていたと思われるので(不幸にして宣戦布告はなかった)、もう20年以上のつき合いになる。

 H攻撃が始まった当初の参謀本部(僕の脳内にある重要問題を扱う部署)の戦略は、ご多分に漏れず防御であった。洗髪のときにマッサージしてみたり、それまでわりと短かった髪を伸ばしてみたり、髪型に工夫してみたり。「育毛剤を投下するべきでは」という意見も出た(僕の脳内で)。さすがに養毛剤投下となるとコストもかかり、効果も疑わしいということで、時期尚早として見送られたが、それでも一通りの防御はやってみた。

 しかし、どうにもならないものはどうしようもない。H攻撃は粛々と進行してきた。攻撃開始に気づいてから1年ぐらいたつと、もはや電撃作戦の様相を呈してきて、絶対防衛線も危うくなり、いよいよ本土決戦(頭頂部のHと額から北上してくるHが結合する状態)も間近と思われた。

 ある朝のことだ。いつものように鏡の前で整髪していたそのとき、「攻撃は最大の防御」という古来からの格言が天啓のように降ってきた。脳内で「攻撃は最大の防御」というフレーズが強烈なエコーで響き渡った。即座に整髪作業を中止した僕は、近所の電器店(ナショナル・ストア)に急行し、電気バリカンを購入。帰宅すると即座にパンツ一丁で庭に出て、3ミリのアタッチメントをバリカンに装着し、頭髪を丸刈りにした。

 鏡で自分を見てみると、そこにはわりと別人の僕がいた。文字通りのハゲ頭。H問題は解決していないどころか、かえって悪化しているともいえる。ところが妙に気分爽快だった。追い詰められていた気分になっていたHとの戦いに、一気に逆転勝利を収めた気がした。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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