「老後報告書」の炎上は不思議でならない
通称「老後報告書」、金融審議会市場ワーキンググループによる「高齢社会における資産形成・管理」(2019〈令和元〉年6月3日付)が、いわゆる「炎上」状態にある。
これは、どうしたことか。筆者は、当初、この炎上を不思議な思いで眺めていた。
本連載で先週書いたように、この報告書は、老後の資産形成と管理について国民個人の立場から書かれたもの。関係者が多いためか、率直に言って内容は「ゆるい」し、不徹底だと思ったのだが、筆者の心配はこの報告書が高齢者向けの金融商品・サービスのあざといマーケティングに利用されるのではないかという可能性にあった。
ところが、現在の議論は、「公的年金は破綻しているのではないか?」「国民に2000万円貯めろという政府の言いぐさは無責任だ」といった妙な方向に向いている。
報告書で問題の「約2000万円が必要」に至る箇所を見ると、「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると」(報告書P.10)、毎月5万円程度を保有資産から取り崩しており、これを基に「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要となる」(P.16)と試算してみたにすぎない。
事実に基づく単なる計算であって、これに文句を言うこと自体が奇妙だ。