前回は企業年金に焦点を当て、確定給付型と確定拠出型の仕組みについて触れた後、一般的にネガティブに捉えられがちな確定拠出型年金(DC)を老後への備えとして積極的に活用することを提案しました。そこで、今回はもう一歩掘り下げて資産運用の観点から確定給付型と確定拠出型の違いを考えてみたいと思います。

実は確定給付型年金にもリスクがある

 確定給付型年金は加入者や受給者の資産を企業が一括して管理・運用する仕組みで、企業の財務部や年金基金に専門の担当者を配し、年金運営上必要なリターン(以下、予定利率)を達成すべく運用しています。ここで重要なのがこの予定利率です。以前は5.5%と高い水準が一般的でしたが、最近は2~3%まで下がっており、企業はもはや運用に高いリターンを期待していません。その背景には、金利低下により大きなリターンが期待できなくなってきたことや、前回触れた企業年金の会計基準厳格化の影響で、単年度の実績を重視せざるを得なくなった企業が大きなリスクを取りづらくなったことなどがあります。

 しかし、それはあくまで企業側の事情で、従業員にとっては、予定利率を達成できようができまいが給付は企業が保証しますので、“直接的には”関係ないはずです。ところが、給付額を保証している企業自体の業績が著しく悪化したり、運用で大きな失敗をすると、給付が削減されることもあり得ます。つまり、安心と思われている確定給付型年金にも実はダウンサイド・リスクがあるのです。一方、アップサイドについては、かつては運用成績が良いと給付増につながったこともありましたが、現在では2~3%の予定利率の達成すら難しく、給付の増額は到底期待できません。つまり、従業員にとって確定給付型年金は資産と積立金の関係がある一定以上悪化しない限りは、決められた額をもらえますが、極端に悪化すると給付削減などにより損失が発生するという、利益と損失の生じ方が非対称なリスク構造となっているのです。