【山口周、五島で考える】<br />「ニュータイプ人材」が旅を重視する理由

これからのビジネスの世界では、「問題を解決すること」よりも「問題を発見すること」の方が重要性を増していく。しかし、良質な「問い」を立てられる人材はとても稀少だ――。7月3日に刊行された最新著作『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』の中で山口周さんはそう語る。
「学びのリソースとして“旅”を重視している」と語る山口さんは、今年5月、長崎県・五島列島でファシリテーターとして「みつめる旅 humanity」(*)に参加した。
昨年「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として列島内の集落が世界遺産登録されたばかりの長崎県・五島列島は、美しい自然と、信仰にまつわる過酷な歴史が交わる世界的にも稀有な場所として知られる。日本最西端の離島というマージナルな場所で、山口周さんが考えたこと、そして旅から見えたこれからの時代を生きる術とは?(構成:鈴木円香)

* ミレニアル世代から支持を得るウェブメディアBusiness Insider Japan主催の「五島列島リモートワーク実証実験」内のツアー企画として開催されました。

【山口周、五島で考える】<br />「ニュータイプ人材」が旅を重視する理由

なぜ今、五島で考えるのか?

――「五島列島で考える」とはかなり唐突な感じもしますが、なぜ今あえて「五島」なのですか?

山口周さん(以下、山口):以前、お仕事でご一緒したデザイナーの原研哉さんが「五島は世界で最も可能性のある土地だと思う」とおっしゃっていたこともあり、五島は以前からなんとなく惹かれる場所でした。

【山口周、五島で考える】<br />「ニュータイプ人材」が旅を重視する理由

 実はここ数年、私の中では「旅」が一つの大きなテーマとなっています。去年と今年だけで五島以外にも日本中のさまざまな土地を旅してきました。

 なぜ「旅」が大事かと言えば、一つには、自分の中で「異化」を起こしてくれるからです。「異化」とは、慣れ親しんだものを一度、非日常化してみることです。そうすることで自分もその一部としてシステムに埋没していた時には気づかなかったことを意識できるようになります。そして「異化」の作用が、次の学びに深く繋がっていくのです。

――自分の中で「異化」を起こすための旅なんですね。

山口:その意味で、東京から1240キロ離れた日本最西端の五島という場所は、「異化」が起こりやすい旅先であると、昨年9月に初めて来島した時から感じていました。人口は列島全体で約6万人、東京から直行便はなく列島最大の島・福江島まで福岡か長崎経由で飛行機を乗り継がなくてはなりません。コンビニもないに等しく、ビーチにも他のリゾート地で目にするような人工物がほとんどなく、いい意味で資本主義に飲み込まれていない感じがします。

【山口周、五島で考える】<br />「ニュータイプ人材」が旅を重視する理由人工物がほとんどない海岸があちらこちらにある五島列島。その浜辺は内省の時間を持つにはぴったりの場所だ。

――今回は、東京のビジネスパーソンの参加が多かったそうですね。

山口:はい。今回の旅は「みつめる旅 humanity」と題して、東京のビジネスパーソンを中心とした十数名で五島列島の福江島、奈留島、久賀島をめぐりながら内省と対話を繰り返し、「人間とは何か?」という問いを考えるというものでした。参加者の中には、外資系IT企業のマネジャー層、大手企業の役員の方、メディアの編集長、各企業で新規事業部を担う若手など、実にさまざまな立場でビジネスの世界で活躍されている方々がいました。

問題が不足している時代だからこそ、「人間とは何か?」を考える

――ビジネスパーソンにとって「人間とは何か?」は、大きすぎる問いにも思えますが……。

山口:なぜ、今ビジネスパーソンが、「人間とは何か?」という問いと向き合わなくてはならないのか? それは、拙著『ニュータイプの時代』にも書きましたが、私たちが「モノが過剰で、意味が稀少な時代」を生きているからです。

 原始時代以来、私たちの社会は常に多くの「不安」「不便」「不満」という「問題」に苛まれてきました。そして、それらの問題を解決することが大きな富の創出につながってきたわけです。「寒い冬に凍えることなく過ごしたい?」「ストーブをどうぞ!」「雨に濡れずに安楽に遠くまで移動したい?」「自動車をどうぞ!」といった具合です。

 ところが今や私たちの社会はモノで溢れかえっていて、桁外れに豪華な生活を送りたいということでなければ、さしたる不満もなく生きていけるようになりました。ビジネスは基本的に「問題の発見」と「問題の解消」を組み合わせることによって富を生み出していますが、今や前者をやれる人材こそが稀少なんですね。

【山口周、五島で考える】<br />「ニュータイプ人材」が旅を重視する理由

――問題が稀少な時代ほど、「人間とは何か?」という問いの重要性が増すのですね。

山口:そうです。「問題の不足」という問題は、そもそも私たち自身が「人間はこうあるべきではないか」あるいは「世界はこうあるべきではないか」ということを考える構想力の衰えが招いているとも言えます。つまり「問題が不足している」とは「ビジョンが不足している」のと同じなのです。

 だからこそ、今一度ビジネスパーソンこそ、「人間とは何なのか?」という問い、つまりヒューマニティーについて突き詰めて考え、自分なりの答えを出すことが大事な時代になっていると思います。