世界中で起きている、
「意味の領域」への転換

尾原:iPhoneもわかりやすいですね。役に立つ機能が増えていたiPhone 6から7くらいまでは、毎回買い替えていた人も多いと思いますが、機能がある程度そろってしまうと、買い替え周期が2年くらいに延びました。それこそ、「役に立つ」進化の上限が来たことを意味していると思うんです。

山口:言い換えれば、役に立つ=スキル(量・テクノロジー)、意味がある=センス(質・アート)です。産業の歴史上は「役に立つ」から「意味がある」へ価値が転換した例はいくつもありますが、日本の場合は、「役に立つ」が「意味がない」へと価値を失いつつある。

 日本のカメラメーカー、ニコンとキヤノンが世界に進出した際、ヨーロッパのカメラメーカーは「役に立つが、意味がない」カメラをつくっていました。

 ところがニコンもキヤノンも「安くて役に立つ」カメラをつくり、同じ領域でヨーロッパメーカーを駆逐しました。そんな中、うまく逃げたメーカーが、ライカです。ライカは今やファッションアイテムであり、持っていること自体がステータスですよね。

 このカメラメーカーのような現象が、自動車でも家電でも起きているわけです。

役に立つ人より「意味がある人」が<br />これからは生き残る<br />【山口周×尾原和啓対談2】

尾原:考えてみたらドイツは面白いですよね。カメラメーカーで言えば、ライカとシーメンスという2つのメーカーはポジションの違いがあります。

 シーメンスは、昔はヨーロッパの中のパナソニック的存在でした。冷蔵庫や洗濯機などをつくっていたのですが、約5年前に「役に立つ世界では、過当競争になると戦えない」と決断。OEMに絞り、BtoBに特化し、IoTにシフトした。IoTの分野はまだ「役に立つ」の壁がありますから、そこで生き残ってきたわけです。

 一方、ライカは先述の通り、「意味がある」世界ですでに価値を得ている。もっというと、アンティークカメラという「役に立たないけど、意味がある」領域にシフトした。

 ところが2018年、一番売れたブランドレンズはライカなんです。ここには「役に立つ市場」で限界を感じた中国のスマホメーカー、つまりファーウェイが、ライカと組んで「意味」を得ようとしたわけです。今後は、このような、ヨーロッパからの「意味」の輸出が盛んになっていくでしょうね。

 これは個人においてもまったく同じで、「役に立つ個人」より、「意味のある個人」の方がますますの市場価値が増す時代だということです。