モレスキンとパタゴニアに共通する
「意味のレバレッジ」とは?

山口:企業の「意味」の形成には、いくつかパターンがあります。まず、ゼロからブランドの「意味」を構築していったパターンです。

 例えば、GAFAでいうならAppleです。特にスティーブ・ジョブズは様々な発言をしていましたが、それがAppleブランドのある種のイメージを作ることになりました。

 一方で、「意味がある」という点で支持されるブランドもあります。その一つがアウトドアブランドのパタゴニアです。このブランドの場合、創業者のイヴォン・シュイナードによる「パタゴニア」というネーミングが秀逸なんです。

 イヴォン・シュイナードは当初、自らが挑戦していたクライミング用のギアを作り、トム・フロストとパートナーシップを組んで販売し始め、「シュイナード・イクイップメント」という名前で経営をスタートしました。日本語で言うなら「シュイナード器具店」みたいな名前ですね。

 やがて扱う製品を広げるにあたり、「パタゴニア」とネーミングしたんです。パタゴニアとは、アンデス山脈を挟んで国境を接するアルゼンチンとチリの南緯40度付近より南を指す秘境の名前です。このネーミングで、“意味のレバレッジ”が起きました。

尾原:密林が残る秘境、という名前を付けることで、多様な生態系の中で「人と一緒に調和を取ろうとする」という“意味”を持たせたんですね。ある種、ファーウェイがライカの意味を借りたように(詳しくは対談記事1を参照)、パタゴニアは「秘境の密林」が持つ“意味”を借りたと。

役に立つ人より「意味がある人」が<br />これからは生き残る<br />【山口周×尾原和啓対談2】

 モレスキンも、イタリアにある小さなセレクトショップが、このままでは商売が成り立たなくなるからと“買ってきた”ブランドなんですよね。彼らが面白いのは、ブランドを始めるなら「今後増えていく人に、刺さるものを作ったほうがいい」と明確に考えていたこと。

 彼らは「旅をしながら仕事をする人」が増えていくと考えた。その仕事の仕方を支えるものを探すうちに、「モレスキン」という、アーネスト・ヘミングウェイが使っていたという「意味」が凝縮された「伝説のノートブック」を見つけた。それを甦らせ、ブランド名にしたわけです。

 このノートブックは一度「価値がない」とされ、なくなっていたのです。でも、1997年に「これからは価値がある」と考えた人が、歴史上の「意味」を見直し、そのノートブックに持たせることで、わずか20年で垂直立ち上げするブランドが生まれたんですよね。