本シリーズではいま我が国を覆う閉塞感を突破すべく、わが国が立脚すべき「国のかたち」を考えていきたい。第1回となる今回は、戦後世界における国家ビジョンの類型と、主題である「市場主義3.0」の意味するところを提示しておこう。

閉塞感の背景にある
国家モデルの混乱

やまだ ひさし/1987年京都大学経済学部卒業(2003年法政大学大学院修士課程・経済学修了)。同年 住友銀行(現三井住友銀行)入行、91日本経済研究センター出向、93年より日本総合研究所調査部出向、98年同主任研究員、03年経済研究センター所長、05年マクロ経済研究センター所長、07年主席研究員、11年7月より現職。『雇用再生 戦後最悪の危機からどう脱出するか』(2009年、日本経済新聞出版社)『デフレ反転の成長戦略 「値下げ・賃下げの罠」からどう脱却するか』(2010年、東洋経済新報社)『市場主義3.0 「国家vs国家」を超えれば日本は再生する(2012年、東洋経済新報社)』など著書多数。

 ギリシャを凌ぐ政府債務残高の累増、10年以上続くデフレ、厳しさの続く若年雇用、拍車のかかる地方経済の苦境など、90年代以降に次々に顕在化してきた根深い構造問題は解決の糸口がみえず、わが国の閉塞感はますます強まっている。

 さらに先行き不安に拍車をかけているのが、政治の混乱である。政権交代時に掲げたマニフェストの順守と喫緊の政策課題といえる消費増税を巡って、内部対立が決定的となった与党民主党は分裂状態となった。政権奪取の好機にある自民党についても、先般国会に提出した、国土の均衡ある発展を謳う「国土強靭化基本法案」は時代錯誤の印象を与える。

 筆者は、こうした経済・政治・社会の閉塞感の背景には、国の進路を指し示すような理念やビジョンを巡る議論が混乱を極めていることにある、との基本認識を持っている。早ければ今夏、遅くとも来年秋には衆院総選挙が行われるわけであり、それまでに国家ビジョンについての議論を深めておかなければ、目指すべき方向を見失った政治は選挙後一段と混迷を深め、この国が坂道を転げるように衰退に向かうことが危惧される。

 本シリーズでは、そうした危機意識を抱きつつ、70年代半ば以降の欧米先進諸国における、経済社会モデルを巡る対立と融合の歴史を踏まえたうえでの、わが国が立脚すべき「国のかたち」を考えていきたい。