注意したい! 礼拝とお辞儀の関係

 イスラム教で特徴的なのは、何といっても礼拝(サラート)です。日本では、夕方の五時や六時に時刻を知らせる音楽をかける地域がありますが、イスラムの国ではモスクからアザーンと呼ばれる日本人にはまるで音楽のように聞こえる呼びかけがなされます。

 礼拝は一日五回、人にもよりますがだいたい一五分から二〇分程度、メッカの方向に向かって祈ります。

 ただし「礼拝は絶対その時間にやらないとダメだ」というのは誤解です。礼拝は未明、昼、日没前、日没後、夜の五回とコーランにより規定されていますが、現実はある程度柔軟で、夜、帰宅してからまとめて礼拝をしても構わないとされています。

 私は神戸情報大学院大学で教鞭をとっており、イスラム教徒の留学生と遠出もしますが、次のアポイントメントに向かって地下鉄に乗っている時、彼らが「礼拝の時間です」と言い出して途中下車するようなことはありません。そのあたりは一般の常識で動いています。

 ただし、普段オフィスで働いている時、イスラム教徒が「礼拝に行ってきます」と中座することは許されてしかるべきだと思いますし、配慮することも必要でしょう。

 礼拝では「アッラーフ・アクバル(アッラーは偉大)」と唱えながら、立ったり座ったりして祈りを捧げます。頭を下げるのは「神への絶対的な帰依」を示すもの。

 だからこそ、イスラム教徒は人間に頭を下げることに抵抗があります。すぐにお辞儀をする日本人に対して違和感を覚える人も珍しくありません。イスラム教徒と仕事をする時は、お辞儀は極力控えておいたほうが良いでしょう。

 また、イスラム教では、神の前での平等が大前提ですから、お客に対しても頭を下げることはありません。お客様は神様という日本との大きな違いです。物乞いもお金をもらっても特に頭を下げるわけではないのです。このあたりの考え方に、日本人ビジネスパーソンは違和感を持つかもしれませんが、イスラム教を理解するなかで慣れていくしかないでしょう。

 ちなみに、日本人の目にイスラム教徒が宗教的に映るのは、独特の服装のせいもあると思います。女性は顔と手以外は隠すべきだと考えられています。

 ただし、顔を全部覆うのはイスラム教というよりは、アラビア半島などその地域の習慣と捉えたほうが良いでしょう。イスラム教徒の男性が髭を生やしていることが多いのは、彼らが理想とするムハンマドを真似ているからです。