増資情報を漏らし、見返りに売買の注文を取る。いわゆる「インサイダー増資」で野村ホールディングスの渡部賢一グループ最高経営責任者(CEO)が引責辞任した。証券取引等監視委員会は野村の行政処分を金融庁に勧告。申し開きの余地のない悪質な事件だが、トップの首を取り行政罰を課せば一件落着、というほど単純な事件ではないと思う。

今回の事件で明らかになったこと

 背後にはグローバル化した証券市場に跋扈する投機集団が、日本を「エサ場」にしている実態がある。主役は日本の証券会社ではない。カネを動かし情報で儲けるヘッジファンドや投資顧問など外資系のハイエナだ。野村をはじめとする日本勢は、ハイエナの協力者として片棒を担がされたに過ぎない。本当の悪者は法の目をかいくぐって平然としているのではないか。

 市場の秩序を守るのは東京証券取引所や金融庁の責任だが、当局は日本の証券市場を健全に保つ対策が打てない。窮余の一策が「野村トップの首を取ること」だった。当局の手が及ぶのは、日本の業界でしかないということなら日本市場は外資の草刈り場になるだろう。

 今回の事件で明らかになったのは次の3点だ。

1.上場企業の特権的な資金調達手段である時価発行増資が歪められ、ヘッジファンドなど外資系ハイエナのエサ場になっている。

2.増資を担当する幹事証券が協力者となり秘密情報をハイエナに提供し、空売りを仕掛ける手伝いまでした。

3.野村が手を染めた「背信ビジネス」の遠因はリーマンブラザーズの海外部門を買ったことにある。米国当局の意向にそって破綻企業を抱きかかえたことが重荷になり、ハイエナの術中にはまった。

4.当局は「増資荒し」を苦々しく思っていたが、外資を処罰する法的裏付けがない。やむなく野村を追い込んで経営者に「詰め腹を切らす」という行政指導でお茶を濁した。