モーツァルトもバッハも、キリスト教を抜きに語れない

 教会では宗教音楽もつくられ、これが西洋音楽の起源となります。モーツァルト、ヴェルディなど数多くの作曲家が「レクイエム」(鎮魂曲)をつくっていますが、これはもともと死者の安息を祈るために、ミサ(ローマ・カトリックの祭礼、礼拝)で流される曲でした。聖書にインスピレーションがわいて生まれた名曲は数え切れないほどあります。

 たとえば、ハイドンの代表作の一つ『天地創造』は、旧約聖書の「創世記」とイギリスの詩人ミルトンの叙事詩『失楽園』をモチーフに作曲されています。

 ヘンデルの『メサイア』は曲名からして救世主、すなわちイエス・キリストです。イエスの誕生から受難、磔から復活までを扱っており、有名なハレルヤ・コーラスは、「ヨハネの黙示録」に由来します。ちなみに、「ハレルヤ」というのは、ヘブライ語で「神をたたえよ」の意味になります。

 J・S・バッハの最高傑作の一つとも言われる『マタイ受難曲』は、三時間にわたる大作で、新約聖書の「マタイの福音書」に記されたイエスの受難を扱った楽曲です。

 我々が普段耳にするクラシック音楽の多くが、神やイエスをたたえるためのものであったり、聖書の内容を再現するものであったりすることは、ぜひ知っておきたい事実です。

 ちなみに、日本の古代からの音楽である雅楽も神道と関係があり、音楽と宗教は切っても切れない関係なのです。

 西洋文学においてもキリスト教は極めて重要なモチーフになっています。

 たとえば、世界文学最高峰の一つといわれるダンテの『神曲』は、地獄、煉獄、天国の各編に分かれ、キリスト教の価値観・教義を文学作品として現していると言えるでしょう。

 また、時代は下りますが、ドストエフスキーの『罪と罰』やジッドの『狭き門』も、キリスト教から生まれた文学作品で『罪と罰』のテーマの一つは、法律に違反しても神からは許される犯罪もあるのではないかという深遠なもの。『狭き門』では、神の国と地上の国(=実際に生きているこの世)における幸福の探求がテーマになっています。