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ロンドン・オリンピックにみる
日本の成熟

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第15回】 2012年9月6日
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 前回は戦略論の観点からオリンピックの成績について(無理やり)考察した。こじつけついでにもう一つ。日本の金メダル集中度の低さが能力重視の戦略の現れだとすると、それは同時に日本の成熟を示唆しているという気がする。

日本のスポーツの成熟

 ビジネスでも新興業界の若い会社(ベンチャー企業とか)の方が、戦略がポジショニング志向になる。これに対して、業界や企業が成熟してくると、ポジショニングだけでは違いが維持しにくくなる。成熟とともにポジショニングから能力へと戦略の軸足がシフトする傾向にある。

 グーグルやアマゾンがその好例だ。当初、EコマースやITがごく初期段階にあったころ、生まれたばかりのグーグルやアマゾンはポジショニングがやたらにはっきりしていた。その後、業界が相対的に成熟するにつれて、競争優位の中身に占める能力(たとえばグーグルの多種多様な技術開発によるサービスの横展開や、アマゾンのきめ細かく迅速なオペレーション)の割合がおおきくなってきた。ついでにいえば、フェイスブックはいまちょうど過渡期にあるといえそうだ(ポジショニングから能力への転換にわりと苦しんでいるような印象あり)。

 面白いのは、高度成長期前後の若かりし頃の日本は、金メダル集中度がやたらに高い国だった。1972年のミュンヘン大会では45%、68年メキシコ大会では44%、64年の東京大会では実に55%と、上位国の中では極端に高い数字になっている。日本のスポーツに対する構えもかつてはポジショニング志向であったが、成熟するとともに能力にシフトしてきたと理解できる(こじつけですけど)。

 日本の人口や日本人の体格を考えれば、アメリカや中国のようなスポーツ大国になることは今後もまずあり得ない。だとしたら限られた資源を有効利用する戦略が大切になる(逆にいえば、資源制約がなければ戦略は必要ない。これは戦略論の前提としてわりと大切なことなのでメモしておいてください)。

 ポジショニングか能力か。どちらがより優れているという話ではない。ポジショニングをよりはっきりさせて、事前に強化する種目を絞り込めば、金メダル集中度は上がり、結果的にいまよりもランキングを上昇するかもしれない。しかし、ここまで成熟した国になった以上、今後ともポジショニングにあまりこだわらず、能力ベースの戦略でイイのではないか、というのが僕の見解だ。

 金メダルが少ないにしても、今回のオリンピックの結果はわりとイイ感じなのではないか。ここまで来ると金かそれ以下は紙一重だろう。もちろん金メダルを取るにこしたことはないのだけれど、「あと一歩」がやたらと多い国というのも、奥ゆかしいというか、おおらかというか、味わいがある。少なくとも日本の「独自性」ではある。

 たとえば陸上短距離。まったく事情を知らないド素人談義かもしれないが、黒人の方が短距離に強いというのはどう考えても確かなことのように思う。ジャマイカ、アメリカはもちろん、世界中から足の速い連中が集まる男子400リレーをみると、出走選手のほとんどが黒人だ。そんな中で、黄色人種4人で走って世界の5位に入る。これはわりと痛快な話だ。快挙といってもよいのではないだろうか。ポジショニング志向の戦略であれば、金メダルが取れるはずがない陸上短距離のような種目で、次々に人材が育つということはないかもしれない。

 体操やバレー(女子)のように、かつては日本が強く、あるときから長期低迷に入ってしまった競技種目も、復活を遂げた。ポジショニングの戦略はいわば「見切り千両」の世界だから、日本がもっとポジショニング志向であれば、こうした復活もなかったかもしれない。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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