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経営破綻はクセになる?(その1)
欧米の航空業界にみる破綻の「洗練」

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第16回】 2012年9月13日
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経営破綻と離婚の相似

 「離婚はクセになる」という説がある。

 それを望む人にとっても、離婚それ自体はネガティブなイベントだ。しないで済むならそれに越したことはない。いざ実行となると、大変なエネルギーを必要とする。僕はまだしたことがないので推測だが、少なく見積もって結婚の十倍の労力はかかる気がする。

 全面的にうまくいく結婚生活というのはほとんどない。どんな結婚でも大小さまざまな問題が起きるのが常だ。最初の離婚はブレーキがかかる。大変な仕事にみえるだからだ(実際大変なのだが)。ところが、初心者なら離婚するほどでもない問題でも、経験者は離婚カードを切りがちになる。一度を経験した人は、離婚という大仕事のノウハウを持っているからだ。経験に基づくノウハウがあれば、2回目以降の離婚のコストは格段に小さくなる(知り合いの離婚3回経験者によると、3回目以降は結婚するより楽になるらしい。「だって式を挙げたり、挨拶状とか出さなくていいじゃん……」とのこと)。離婚はクセになる、という成り行きだ。

 経営破綻(ありていにいって倒産)という仕事(?)もこれに似ているように思う。喜んで破綻する人はいない。離婚と同じく、できたら避けたい事態だ。しかし、最初の破綻は大事でも、2回目以降はノウハウが使える。同じ倒産にしても、心理的な抵抗は小さくなる。コトの展開パターンや手続きもわかっている。で、クセになる。

米国航空業界で起きたこと

 航空業界は競争が激しく、収益性が低い業界の典型だ。とくに競争が激しいアメリカでは、経営破綻が日常茶飯事。90年代に入って規制緩和が本格化すると、長い歴史を誇り、業界でも最も影響力を持っていたパンナム(パンアメリカン航空。懐かしいですね……)が早々に経営破綻の憂き目にあった。

 ご存知のようにアメリカの経営破綻は通常「チャプター11(連邦倒産法第11章)申請」という形で処理が行われる。これに引っ掛けて、アメリカの航空会社には”company of Chapter 22”とか”Chapter 33 company”と揶揄される会社がある(蛇足ながら、2回、3回と破綻を経験しているという意味)。パンナム亡き後のアメリカ航空業界のビッグ5といえば、アメリカン、ユナイテッド、デルタ、ノースウェスト、USエアーだった。すごいのは、このかつてのビッグ5がその後すべて破綻を経験しているということだ。まことに厳しい業界ではある。

 パンナム破綻はアメリカでも大騒ぎになった(結局パンナムは再生が軌道に乗らず消滅している)。ところが、いかんせん過当競争の航空業界だ。規制緩和後、破綻が頻発する。破綻と再生のノウハウがどんどん蓄積していく。破綻処理とその後の事業再生のサポート・サービス(投資会社とか弁護士とか)も充実しまくる。破綻処理の制度やルールも整備が進む。悪循環か好循環かは別にして、循環的な成り行きで、経営破綻が「カジュアル」な出来事になる。航空業界のチャプター11申請はもはや「ちょっとダイエットに行ってくる…」という調子だ。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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