前回、前々回で「市場主義1.0」および「市場主義2.0」について解説してきた。両者は、経済システムにおける“市場原理の重視”に共通点を持つ一方、社会システムでは“市場原理重視vs政府介入重視”で、対照的であることがご理解いただけたと思う。これまで具体的なケースとして、前者の典型を米英、後者を北欧として紹介してきたが、実は90年代以降、両者はそれぞれ固有の問題への対処策を講じるなかで徐々に変容してきており、現実には互いが接近する動きがみられている。
もちろん、各国には国民性や歴史的経緯の違いもあって完全に同一化することはありえない。しかし、一定の収束がうかがわれ、その方向性にあるものが筆者の呼ぶ「市場主義3.0」にほかならない。その具体像を明らかにする前に、90年代以降の北欧および米英における動向についてみておきたい。
北欧で進む
社会サービス分野への民間参入
前回、「市場主義2.0」について解説を行った際、その原型は北欧モデルにあると述べた。ここでより厳密に定義すれば、“市場原理重視の経済システム”と“政府介入重視の社会システム”の組み合わせである「2.0」の原型は、「戦後から80年代までの北欧」でのモデルと言い直す必要がある。90年代以降の北欧では、純粋な「2.0」のモデルは変容を余儀なくされているからである。スウェーデンのケースでみてみよう。
90年代初め、先進各国は、80年代後半期に大規模に発生した世界的な不動産バブルの崩壊に直面した。スウェーデンも例外ではなく、それは金融システムの崩壊をもたらすとともに、経済・財政・雇用に大打撃を与えた。経済成長率は91年から3年連続でマイナスとなり、90年に1.7%であった失業率は93年には9.0%にまで一気に上昇した。90年代初頭には黒字であった一般政府財政収支も、94年にはGDP比で10%を超える赤字に陥った。