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連載経済小説 東京崩壊
【第69回】 2012年8月29日
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高嶋哲夫 [作家]

首都移転プログラム

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第4章

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 村津参事官は会場を見渡した。

 700人が入る会場は超満員で、壁際には立ち見の人もいる。さらに、会場外の広場にも巨大スクリーンが設置され人で埋め尽くされていた。

 「新首都が予定されている吉備高原は、岡山県中央部にある標高約300メートルの場所です。40年ほど前から都市建設が進められていましたが、2000年ごろに財源不足で開発がストップしました」

 村津は正面スクリーンに向き直った。全面に岡山県の航空写真が映し出されている。上半分はほとんどが緑だ。その中央部分が拡大された。吉備高原だ。

 県のほぼ中央部にあたる山が切り開かれ、高原部とつながった造成地が広がっている。村津はその東半分にレーザーポインターを当てた。

 「現在機能しているのは昭和55年から着手した前期計画分で、432ヘクタールあります。そして西側の後期計画分、880ヘクタールは基礎整備のみ完了しているという状況です」

 かつての計画によると、この都市は保健福祉区、産業区、研究学園区、コミュニケーションセンター区、レクリエーション区、住区、そして保全農用区という7つのゾーンで整備される予定だった。しかし定住人口が予定を大きく下まわり、1997年に新規事業を延期、2002年に事業凍結した。

 「この位置であれば、県の中央であると同時に西日本の中心にあるとも言えます。東京が東日本の中心であったのと、同じような関係です。現在の政府機関の集中する霞が関、永田町周辺、つまり東京駅から浜松町駅にかけての部分は2000ヘクタール近くあります。それに比べて新首都は狭すぎるのではないかという意見もありますが、小さな政府を目指すには十分な広さです」

 村津は会場を見渡した。真剣な空気が伝わってくる。

 「幸い、新首都は山の中です。もっと面積を確保することは十分可能です。しかし、新しい首都は東京とは全く考え方が違います。アメリカのワシントンDCとニューヨークの関係を考えてください。政治都市と、経済、文化都市の住み分けです。新首都は政治のみに特化します。政治と行政以外のすべての無駄を省いた都市です。一方東京は、これからも経済の中心として機能します。名古屋や大阪と強く連携して日本の経済発展に大きな役割を持ち続けます」

 スクリーンの航空写真が新首都のイラスト画像に変わった。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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