深掘りするには、「競合」と「選択肢」を聞く

 相手の問題を深掘りするテクニックは2つあります。場合によっては話が深くなりすぎたり、面談の主旨からそれてしまったりすることもあるので、時間との兼ね合いをみて、あるいは、休憩中などシチュエーションを変えてみるとよいかと思います。

 1つ目は、「競合(Competitor)は誰か?」です。顧客自身にライバル企業について聞くことで、「競合と比べてなぜうちは強いのか」「なぜうちは負けているのか」「勝つためのうちの課題は何か」といった話に広がり、それらの情報から、相手の抱えている悩みや問題が浮き彫りになるからです。

 また、競合のことを聞かれると人は口が軽くなりやすい、という利点もあります。ライバルに負けていないことを示したいがために、つい饒舌になることも多々あります。さらに、競合がどのような影響を及ぼしているのかまでダメ押しで聞くと、より深い情報が出てくることがあります。

 Who are your competitors?
 →御社の競合はどこですか?
 Who would you say your competitors are?
 →競合と言えばどこですか?
 Besides your company, who else is successful in this field?
 →御社以外に、このフィールドではどこがベストですか?(少し間接的な表現で競合を聞き出す )
 How do they affect your business?
 →その競合はどのような影響を与えていますか?(さらに深い情報を引き出す )

 2つ目が、「他の選択肢(Alternative)は何か?」を聞くことです。これにより、相手の真意を立体的に捉えることができます。例えば、コンビニでカップラーメンを買う人がいたとき、その人が真に求めているモノを知りたければ、「カップラーメン以外だったら何がいい?」と他の選択肢を聞くとよいです。

 もし、「おでん」という答えなら、何か温かいものが欲しかったのかもしれません。「そうめん」だったら麺類が食べたい、「サキイカ」だったら塩っ気が欲しかったのだ、と理解できます。顧客の真の問題=ニーズが透けて見えてくるのです。

 ちなみに、相手の選択肢を知っていることは、後の交渉を有利にします。これは交渉術の基礎でもある「BATNA」という考え方です(よろしければ、本書84ページのコラムをご参照ください)。

 ただし、「うちの会社から買わなかったらどこから買うの?」といった質問は、言い方によっては失礼になるので、謙虚に、笑顔で、英語表現も丁寧に聞きましょう。

 Could you tell me what other options you have?
 →可能であれば、他のオプションを教えて頂けますか?
 If you don’t mind, could you tell us who else you are looking into?
 →よろしければ、他にどの会社のものを検討しているか教えて頂けませんか?
 Could you tell us who else you have in mind?
 →他にどの会社をお考えか教えて頂けませんか?
 If you don’t mind, could you tell us who else you are doing business with now?
 →現在、どことお付き合いされているか教えて頂けませんか?(既存のビジネスパートナーも大切な情報 )
 If you don’t mind, could you tell us who you worked with in the past?
 →これまでどことビジネスされたか教えて頂けませんか?(過去のパートナーも知っておきたい )

・こちらが買い手の場合

 相手が信頼のおけるサプライヤーだと知っている場合は、こちらの抱えている問題を率先して開陳することで良い提案をもらえることもあります。よく知らない相手であれば、最近の活躍ぶりを質問しつつ相手を知る手がかりを何か得られれば、後々有利に働きます。「How’s business?」(→ビジネスはどうですか)といった常套句のほかに、このような切り出し方もあります。

 Can we know a little bit more about your company?  
 →御社のことについてもう少し教えてもらえますか?
 What kinds of products does your company produce?
 →御社はどのような製品を作っていますか?(相手が売りに来た製品は見当がついているが、改めて聞くことで、その製品が相手企業の本流なのか傍流なのか、全体像がわかることもある  )

 セールスの場合の言い回しは、以上となります。次回は、問題解決や改善という課題の場合、どうやって現状を把握したらよいか、そのやりとりの仕方を見ていきましょう。

相手から情報を引き出す、絶妙な言い回し
児玉教仁(こだま・のりひと)
イングリッシュブートキャンプ株式会社代表
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー
静岡県出身。静岡県立清水東高等学校を卒業後、1年半アルバイトで学費を稼ぎ渡米。ウィリアム・アンド・メアリー大学を経済学・政治学のダブル専攻で卒業後は、シアトルでヘリコプターの免許を取得後帰国。1997年4月三菱商事株式会社入社。鉄鋼輸出部門に配属され様々な海外プロジェクトに携わる。2004年より、ハーバード経営大学院に留学。2006年同校よりMBA(経営学修士)を取得。三菱商事に帰任後は、米国に拠点を持つ子会社を立ち上げ代表取締役として経営。2011年同社を退社後、グローバル・リーダーの育成を担うグローバル・アストロラインズ社を立ち上げる。2012年よりイングリッシュブートキャンプを主宰。イングリッシュブートキャンプ社代表も務めるかたわら、大手総合商社各社をはじめ、全日本空輸、ダイキン等、様々な国際企業でグローバル・リーダー育成の講師としてプログラムの開発・自らも登壇している。