わかりやすい金融知識の解説で定評のある吉本佳生氏の新刊『確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり』(講談社ブルーバックス)を読んでみた。投資を考える上では、リターンを考えることよりも、まず、リスクを把握することが大事だということと、リスクを大ざっぱでもいいから、「体感」できるようにするべきだという著者の主張に大いに賛成だ。

 では、リスクをどうやって「体感」するのか。この本には正八面体のサイコロの展開図が付いている。これを切り抜いて組み立て、転がすことが推奨されている。サイコロは2タイプあって、リターン変動の2期分の結果を一度に選ぶことができるタイプAと、3期先を1回で得るタイプBが付属している。コインや正六面体のサイコロを使うよりは手抜きができる。

 投資教育でリスクを説明するのは常に悩ましい問題だが、「1期先に上がる、そして2期先に……」といった分岐をサイコロを転がしながら、どれくらいの規模の損益が、どのくらいの確率で起こるかを説明するのが、回りくどいようでいて、着実なのかもしれない。

 分岐が広がる様子を具体的に見せることで、「長期投資のほうがリスクは大きい」といった、重要な知識を異論の余地なく伝えることができるメリットもある。

 長期投資でリスクが低減すると説明するためによく使われる「年率の標準偏差」が、グラフでは投資期間によって縮小し、不適切な見方であることは、この本でも説明されている。

 さて、この本および特製サイコロが説明しようとするリスクの対象は、株式や為替のデイトレードと長期投資の比較といった平凡なものにとどまらない。実は、この本で、力を入れてシミュレーション計算の説明をしている対象は、「早期償還条項」と「ノックイン条件」が付いた、仕組み債のリスクの計算だ。前者は、原資産価格(例えば日経平均の値)が判定日に一定の価格を上回っていたら、債券が早期償還されるという条件で、後者は、原資産価格が債券の満期までに一度でも一定の価格を下回ったら、債券の元本が原資産価格に連動するようになるといった条件が典型的だ。