林總先生の最新刊『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』の発売を記念して、シリーズ第1作『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』の内容を特別公開。父の遺言により社長に就任した由紀は、会計力で会社を救えるのか?今回は第2章の前半をご紹介致します。

 【前回までのあらすじ】
父の遺言により倒産寸前の服飾メーカー「ハンナ」の社長に就任した由紀。ところが、メインバンクからは資金協力を拒否され、1年経っても経営が改善しなければ融資を引きあげると言われる。由紀からコンサルを依頼された安曇は「会計の数値を鵜呑みにしてはいけない。それは『隠し絵』であり、『だまし絵的』であるからだ」とアドバイスする。

銀座のレストラン

 エレベータをおりた瞬間、由紀は自分が日本にいることを忘れてしまった。きらびやかな装飾を施したこの空間はどう見てもフランスだ。赤い絨毯を敷きつめた階段を下ると、ウェイターがやってきて由紀の耳元でささやいた。

「安曇さまがお待ちです」

 もじゃもじゃ髪の男は、由紀を見つけると手招きした。

「セットメニューでいいね。ワインも頼んだから」

「すてきなレストランですね」

 由紀は、こんな豪華なレストランで食事をするのは初めてだった。周りのテーブルでは、中年の夫婦や若い男女が楽しそうに食事をしていた。

 ソムリエが派手なラベルのワインを運んできて、安曇に見せた。

「シャトー・アンジェラス。サンテミリオンの第一特別級ワインだ」

 グラスに注がれたビロード色の液体を見るだけで、その味のすばらしさを確信できた。安曇はテイスティングを済ませると、こぼれんばかりの笑みを浮かべた。

 ところが、由紀はこの日も気分が落ち込んでいた。

「高田支店長にさんざん言われてしまいました」

 文京銀行本駒込支店長の高田五郎がやってきて、唐突に2週間でリストラ計画を作成するようにと言われたのだ。由紀は、リストラがどういうものか、いまだにわかっていない。会議に同席した斉藤経理部長は、沈黙したままで助け船を出そうとはしなかった。それどころか、終始高田の顔色をうかがい、相槌を打っていたというのだ。

「リストラって従業員を辞めさせることですか?」

 と、ポツリと言った。会社のために働いてくれる従業員を解雇したくはない、と由紀は思っている。

「そういう側面もある。しかし、リストラの本質は人員整理ではない。ところで君は太ったことはあるかな?」

 突然、安曇は話題を変えた。