「まったく色々なことがあったな~。オラ~、まさかこんな結果になるとは夢にも思わなかったダ~」

 この独特の語り口で人気のマンガといえば、『クレヨンしんちゃん(以下、しんちゃん)』(双葉社)だ。9月20日、同漫画の作者である臼井儀人氏が群馬県の山中で遺体で発見されたことは、衝撃的なニュースとして記憶に新しい。

 『しんちゃん』は1990年に『週刊漫画アクション』で連載が開始され、92年にテレビ朝日系列でアニメの放送が始まると、たちまち大人気となった。今や『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』などと共に、日本を代表するマンガの1つだ。臼井氏が亡くなった時点で、単行本の発行部数は累計約5000万部もに上る。

 その他、映画、キャラクターグッズ販売、海外でのアニメ放映など、関連ビジネスは多い。アニメはこれまでに香港、台湾、インドネシア、スペイン、イギリスなど、世界各国で放映されてきた。

 なかでもダントツの人気を博したのが、香港経由で海賊版が広まった中国だった。中国では作者死亡のニュースを大手メディアが一斉に報道。個人のブログなどでも、「臼井さん、楽しいマンガを本当にありがとう」、「しんちゃんがいたお陰で楽しい子供時代を過ごせました」といった書き込みが多数行なわれたのだ。

 予想以上に大きいメディアの反応と好意的な書き込みの数々を見れば、「しんちゃん」が中国でいかに愛されてきたかがわかる。

 香港で放送が開始されたのが95年。その後、正式放映されていないにもかかわらず、中国全土で『しんちゃん』は大人気となり、関連キャラクターグッズは飛ぶように売れた。日本と同様に、90年代後半は、しんちゃんのモノマネをする子供たちが巷に溢れた。

 しかし、中国で『しんちゃん』といえば、忘れてはならない残念な事件がある。それは「商標訴訟問題」だ。

 作者の突然の死亡という節目に当たり、日本企業が遭遇した海外における商標事件のさきがけとなり、かつ最大の事件でもあった「クレヨンしんちゃん商標事件」の経緯を振り返り、今後の課題を改めて検証してみよう。

 『しんちゃん』の版元である双葉社は、衣料品、おもちゃ、文具などの『しんちゃん』関連商品について、94年に日本国内で商標登録していたが、放映されていない中国での商標登録は行なっていなかった。