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楠木建の週刊10倍ツイート

戦略のイノベーション(その1)
なぜ「思いつかなかった」のか?

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第21回】 2012年10月18日
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 このところ(というか、ずいぶん前からだが)「イノベーションが重要だ!」という話がやたらと飛び交っている。もちろんそれはその通りなのだが、イノベーションとは単に「新しいことをやる」ということではない。進歩(progress)とイノベーションとはまったく異なる概念だ。近年の「イノベーション!」という議論には、ここを混同していることが少なくない。イノベーションを進歩とはき違えてしまうと、変な話になる。

「進歩」と「イノベーション」の違い

 スマートフォンがますます軽く薄くなる。画像も鮮明になる。音質もよくなる。消費電力が少なくなる。こうしたことはすべて技術の「進歩」であるが「イノベーション」ではない。イノベーションの本質は「非連続性」にある。いまの延長上に何かを進歩させるだけでは、「連続的に」価値が向上したという話であり、「非連続性」というイノベーションの条件を満たしていない。

 イノベーションの本質が非連続性にあるとしても、単に斬新なものを提出するだけではイノベーションにならない。それが非連続であったとしても、単純に斬新なだけでは、顧客には受け入れられない。イノベーションとは供給よりも需要に関わる問題である。多くの人々に受け入れられて、その結果、社会にインパクトをもたらすものでなければイノベーションとは言えない。これがイノベーションの第2の条件だ。

 技術進歩は「できるかできないか」の問題であると考えるとわかりやすい。これからますます深刻になる環境問題やエネルギー問題を考えると、電気自動車の技術進歩は社会にとってもビジネスにとっても大きなインパクトをもっている。しかし、そんなことは誰にとっても自明の事実だ。

 世界初の量産電気自動車である日産のリーフは挑戦的な商品だ。こういうものを思い切って市場化した日産は偉い。しかし、現状では1回バッテリーを充電したときの航続距離が物足りないという人が多いようだ。だからより航続距離が長い電気自動車を開発する必要がある。一定のコストで量産できるという前提で、電気自動車の航続距離をガソリン車並みにするためには、いくつもの技術進歩が必要になる。しかしこれは難しい。つまり、「できるかできないか」の問題であり、そうした難しい問題を克服して「できた」ときに、それは世の中に技術進歩として登場する。

 これに対してイノベーションは、「できるかできないか」よりも「思いつくかつかないか」の問題であることが多い。難しいからできないのではなく、それまで誰も思いついていないだけなのだ。だから、「『なぜこれが今までなかったんだろう』。これがイノベーションに対する最大の賛辞である」とドラッカーは言う。社会にインパクトをもたらし、人々の生活を変えるようなイノベーションほど、「言われてみれば当たり前」という面がある。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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