シャープを襲う「キャッシュフローの空洞化現象」
単純な資本注入では再生計画は確実に頓挫する

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 モラル・ハザード(倫理の欠如)という用語がある。『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』653頁によれば、依頼人(プリンシパル)が代理人(エージェント)の行動を完全には監視できない場合、代理人による「不適切もしくは『道徳的でない(モラルのない)』行動がとられるリスク、すなわち危険(ハザード)」をいう、とされている。

 最近、地方の金融機関の活動で、「それって、モラルハザードではないか」と懸念される噂をいくつか聞いた。金融機関が中小企業に対して「対前年比売上高を5%以上(または10%以上)減らした決算書を提出して欲しい」とセールスして回っているというのだ。

 単純な例で説明するならば、前期(2011年7月~9月)までの売上高の合計額が1億円であった場合、翌2012年7月~9月までの売上高を9500万円以下(または9000万円以下)に抑えた決算書を「提出してくれ」というものである。

 金融機関が、そうした奇妙なセールス活動を行なうにはワケがある。東京信用保証協会の「セーフティネット保証」を参照すると、確かにそうした制度融資が導入されているのだ。

 対前年比売上高が5%以上(または10%以上)減少したので → 信用保証協会のセーフティネット保証に申し込む、というのであれば、話はわかる。ところが、セーフティネット保証を利用するために → 対前年比売上高を5%以上(または10%以上)減らした決算書を「提出してくれ」と、金融機関が中小企業にセールスして回るのは、本末転倒だ。

地方の金融機関に広がる
モラルハザード

 低利の融資を受けられる中小企業としては、金融機関からのセールスに否やはない。そこで中小企業からあちこちの会計事務所に対して、「対前年比売上高を5%以上(または10%以上)減らした決算書を作成し直して欲しい」という要請が行なわれることになる。

 それに従って行なわれる会計処理を「逆粉飾決算」という。粉飾決算とは、売上高や利益を「先食い」すること。上記の例は「先送り」になるので、逆粉飾決算になる。

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高田直芳 [公認会計士]

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月〜13年10月まで公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行なう。

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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

大不況により、減収減益や倒産に直面する企業が急増しています。この連載では、あらゆる業界の上場企業を例にとり、どこにもないファイナンス分析の手法を用いて、苦境を克服するための経営戦略を徹底解説します。

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