ということは、自分のお金で賄えるトラブルなら保険に入る必要はない。例えば車を運転する人なら、自動車保険で対人賠償に入るのは必須だろう。万が一死亡事故を引き起こしてしまったら、何億円もの賠償はとても自分では払えないからだ。でも、そういうことは確率的にはめったに起きない。だからこそ、安い保険料で無制限の賠償が可能になるのである。

 ところが、同じ自動車保険でも車両保険は比較的保険料が高い。その理由は自分の車を傷つけるような軽い接触は車庫入れや車同士がすれ違うときに比較的よく起きるからだ。したがって、対人賠償には必ず入るけど車両保険には入らないという人もいる。これはとても合理的な判断かもしれない。なぜなら車両保険の場合、損失の限界金額は車の購入代金である。中古で安く買った車なら、高い保険料を払うよりも、修理費を自分で払った方が良い場合も多い。

恐怖に駆られると
合理的な判断が難しくなる

 このように損害保険の場合であれば、保険の本質を正しく理解し、合理的な思考で対応できるにもかかわらず、生命保険や医療保険になるとなかなかそういう合理的な判断ができず、過剰に保険に入ってしまう人が多い。この理由は自分の健康や生死に関わることなので、過剰な不安を持ってしまうという人間本来の性質の影響だろう。人間の行動を促す最も大きな要素は「欲」と「恐怖」だと思うが、とりわけ「恐怖」に駆られての行動というのは強い動機で動くため、ややもすれば過剰反応しがちになるのは仕方のないことである。

 ところが、中には損害保険同様、生命保険や医療保険についても冷静に考えて合理的な判断のできる人たちがいる。それがサラリーマンとして資産形成に成功した人、最近流行の言葉で言えば“億り人”といわれる金融資産を1億円以上こしらえた人たちだ。彼らはサラリーマンなので、自営業やフリーランスのように収入についてのバラツキがない。したがって、いかに支出の適正化を図り、そこで生み出したお金を投資に回せるかということがとても大事なのだ。いわゆる“億り人”という人たちの多くは、決して株で一発当てて大金持ちになったというような人ではなく、そうやって長い期間をかけて資産形成に成功した人たちなのである。