比較すると、問題は「これまでに成功体験がない」ということではなく、成長のベクトルなのではないかという気がします。「今、自分がいるところが成長している」「頑張れば儲かる」「コミュニティが自分の努力で変えられる」という意識が、カンボジアの若者の自信や元気につながっているのではないでしょうか。

 また、彼らは親世代のことは尊敬していますが、教育や資産などを与えられることは期待できない状態にあり、上の世代には頼れないという考え方も浸透しているように思います。

 翻って日本を見てみると、GDPで見れば今でも世界第3位の経済大国です。バブル崩壊後は低成長が続いていますが、これまでに培った経済力を頼みに、上の世代を尊重しよう、踏襲しようという傾向があるのかもしれません。しかし経済が上向きの成長ベクトルの上にあるわけではないので、徐々に目減りしていく漸減ベクトルを再生産する状態に陥っているのではないでしょうか。

働き手が楽しく仕事をできる環境は
いい事業づくりにつながる

 国の景気がいいということは、物価が上がるということでもあります。日本でも、日本銀行が物価安定目標を2%とするインフレターゲットの導入を2013年1月に定め、経済の安定的成長を図る政策を採用しています。ただし物価が上昇するということは、人々の生活が苦しくなることも意味します。

 物価はアウトプット、つまり企業や消費者の経済活動の結果に過ぎず、インプットである賃金との間には何らかの関数が存在しています。日本は、この関数が変わらなければならない局面に入っているのですが、実際には変わらないまま、バブル崩壊後のいわゆる「失われた10年」を経て、デフレ不況が長期化している状態です。

 インプットである賃金とアウトプットである物価との関係を変えるためには、産業構造を変える必要があります。たとえば人材流動性を高めて、人々がより成長が期待できる企業に転職しやすくする、新産業に人が集まるように人件費を補助する、といった対策が考えられます。これらはマクロな視点での変化の促進です。