「定年退職まで逃げ切りたい」と考える
中高年社員の処遇はどうすべきか?

――日本の大企業には、「現状のまま、なんとか定年退職まで逃げ切りたい」と考える中高年社員が多いといわれています。パフォーマンスが振るわず新しいスキルも学ぼうとしない人には退職しかないのでしょうか?

グラットン そうですね。例えば、IBMの場合、上司がどのくらい熱心に仕事をしているか、チームの生産性に貢献しているかなどについて、部下たちが管理職のパフォーマンスを評価・査定しました。その結果がかんばしくなければ、会社がパフォーマンスの改善を支援し、それでもダメなら異動か退職です。マイクロソフトもそうですが、組織改革を行うテック大手は管理職に新たな職務を示し、支援してもうまくいかない場合、異動か退職といった処遇が通常です。

 ただし、前述の通り、年齢で切るべきではありません。50歳の管理職が、こぞって仕事ができないわけではないでしょう? 要は、職務をどれだけうまくこなせるかです。職務遂行能力を客観的に評価することが、なにより重要なのです。

パンデミックが管理職の
存在の重要性を再認識させた

――あなたは以前、ハーバード・ビジネス・レビュー誌(2011年1~2月号)に寄稿した「The End of the Middle Manager」(中間管理職の終焉)で、テック革命により、中間管理職の伝統的なジョブが消えると予測しています。テックが監視役や報告書の作成などをこなす一方、テックの進歩でチームの自己管理度も高まるため、一般的な管理スキルしかない人々は弱い立場に置かれる、と。コロナ禍は、こうした傾向にどのような影響を与えると考えますか?

グラットン ちょうど、管理職に関する記事を書き終わったところです。今回のパンデミックは、管理職にとても重要な影響を及ぼしました。在宅勤務の普及などにより、管理職は、部下をサポートしながら協働し、チームをまとめ上げ、複数のチームをつなぐ接着剤のような役割を果たすという意味で、むしろ非常に重要であることがわかったからです。

 部下が新しいスキルを学び、それを伸ばしていくよう奨励するという役割を担っている、一人一人の部下との触れ合いやつながりを担っている、そうした意味でも、管理職の存在はとても大切です。ただし、その職務内容は変容しています。

――将来、管理職というジョブが消滅するようなことはありませんか? AI(人工知能)やアルゴリズムによる監視が現実化していますが、人間の管理職が不要になる可能性はあるのでしょうか?

グラットン 管理や事務といった仕事の多くはテックの普及で消滅しつつありますが、管理職自体は今後も健在だと思います。例えば、英スタンダードチャータード銀行は、管理職のスキルアップに力を入れ、彼らが部下のコーチ役を務められるように、管理職をコーチしています。

――コロナ禍によるデジタル化の加速で、ホワイトカラーの失業リスクが高まることは?

グラットン 日本では労働市場が(人口減と高齢化で)逼迫(ひっぱく)しているため、デジタル化の加速だけを要因として高失業率の時代が始まるとは思いません。でも、ジョブの中身は変わっていくでしょう。

 私たちは現在、ジョブとともに働く人々も変わっていかなければならない移行期にありますが、その変化のペースが加速しているのは確かです。

(後編へ続く)

リンダ・グラットン教授が語る、ポストコロナにおける日本企業、ビジネスピープルの生き残り戦略とは? 近日公開予定のインタビュー後編もぜひご覧ください。