台湾「民意は現状維持」が圧倒的
独立は強要できない

 台湾問題についてもバイデン政権は結局、“あいまいな戦略”を取るしかないのではと思われる。

 台湾政府の大陸委員会は例年、独立・統一問題についての世論調査を行っており、昨年11月の発表では、現状維持を求める人が計87.6%に達した。

 内訳を見ると、「すみやかに独立」を望む人は5.0%、「すみやかに統一」は1.1%にすぎず、「現状維持後独立」が20.8%、「現状維持後統一」が7.0%、「永遠に現状維持」が29.9%、「現状維持後に独立か統一かを決める」も29.9%だ。

 現状維持派が圧倒的に多数というこの比率はほとんど毎年、変わらない。

 背景には、中国本土との経済での深い関係がある。昨年の台湾の輸出の44%は香港を含む大陸向けで、過去最高の1514億ドル(約17兆円)、前年より14.6%増だった。

 台湾と大陸との貿易には集積回路など電子部品や精密機械が多く、緊密な相互依存関係が成立している。台湾からの海外投融資は迂回が多く、正確な実態は把握されていないが、約6割は大陸向けと推定されており、台湾のビジネスマン、技術者など約100万人が大陸で働いている。

 こうした共存関係や1990年代からは民主主義が定着していることもあって、台湾の世論もあいまいな現状を保つのが得策と思う現実的な人が圧倒的に多いということだろう。

 このため選挙の際には、大陸との友好関係を重視する国民党は「統一」と言えば票が減るから「独立反対」を唱え、独立志向がある「民進党」は「独立」を言わず「統一反対」を叫ぶことになって、結局、両党の主張が「現状維持」に収斂することになっている。

 民進党の蔡英文総統も2016年に初当選する前には、米国を訪れ「台湾の独立を求めない」と明言していた。いまも時に中国を批判しつつ、「台湾はすでに独立状態にあり、独立を急ぐ必要はない」との中庸の姿勢を保っている。

侵攻となれば双方に大打撃
武力衝突回避の「合意」は当然

 中国にとっても武力によって台湾の統一を図るのは百害あって一利もないだろう。

 中国海軍は今年4月3万6000トン級、陸兵1200人を運べる大型揚陸艦「海南」を就役させ、他に2隻を建造中だ。だがそれが3隻、あるいはそれ以上そろい既存の揚陸艦に加わり、さらに商船や漁船を動員しても、台湾陸軍8万人と海兵隊1万人を制圧し、全島を占領するたけの兵力を運ぶのは容易ではない。さらに台湾陸軍の予備役兵は名目上150万人もいる。そのうち1割程度は動員可能だろう。

 仮に侵攻して占領できても、2400万人の台湾島民を統治し、ゲリラ、テロリストを討伐するのも大変だ。経済の相互依存を考えれば、台湾の工業力が破壊されればまるで自分の足を撃つように、中国の工業にも大打撃となる。諸外国との関係も悪化し最大の貿易国の地位を失う結果になりそうだ。