――行動の基準が、「ストレス」なんですね。

 そうですね。苦手な人と関わるときも、結局ストレスをてんびんにかけているかな。

 こいつのご機嫌を取るストレスと、こいつからの仕事がなくなるストレスをてんびんにかけて、たいていご機嫌を取るストレスのほうが大きいから、「だったらいいよ、出られなくて」って思っています(笑)。

 ビジネスマンだったら、ストレスを受けてでもその人と仲良くすることで得られるお金があるわけじゃないですか。その人にこびを売るストレスと、その人と関わらないことでお金がもらえないストレスをてんびんにかける、ってことかもしれないですね。

――やりたくない、嫌な仕事をするときは、どういうモチベーションで取り組んでいるんですか?

 嫌な仕事でも、1回はやります。文句言いたいから。文句を言うために1回やる。

 外からばかにするのと、1回やってみてばかにするのでは全然深みが違うから、とりあえず1回やってみるようにしています。

100人に1万円払ってもらうより
1万人に100円払ってもらうほうがいい

――岩井さんのエッセイは、岩井さんやハライチのことを知らない人にとっても読みやすいと思います。以前、インタビューで「閉鎖的なコミュニティーが好きではない」というようなお話をしていて、コアなファンにウケるのではなく、裾野を広げることを意識しているのかなと感じました。

岩井さん(C)新潮社写真部

 そうですね。特に、漫才では意識しています。自分たちのキャラクターを理解してもらっている前提の漫才は絶対にやらない。

 ラジオでも、前回あったくだりをやる場合は、全部説明していますね。今日から聞いているお客さんがいる意識を持つようにしています。常連からしたら、かったるい時間かもしれないけど。そこは常連で聞いているんだから仲間みたいなもんじゃん、我慢して、と甘えている部分もあります。

――なんとなく、ずっと支持してくれるお客さんに意識が向きがちだと思いますが、いつも「一見さん」を意識しているんですね。

 ヘビーユーザーを喜ばせにいった瞬間に、扉を閉めちゃうことになる。

――最近のトレンドとしては、オンラインサロンのように狭くて熱量の高いコミュニティーをつくる方向性もあると思いますが、そういうことには関心がないですか?

「この人にいくら払えるんですか」って、個人に突き付けるような感じですよね。あんまり好きじゃないですね。時代錯誤なのかもしれないですが。

 なんで人を笑わせることが好きなのかに通じるのかもしれないですけど、俺は笑わせることで、「全員に自分を許容させたい」と思う。

 俺のこと嫌いだったら笑わないじゃないですか。めちゃくちゃ腹立つ相手だったら笑いませんよね?

 でも、めちゃくちゃ面白いことをやったら笑っちゃうかもしれない。そのときって、ちょっとその人のことを許容していますよね。「認めた」とは違うんだけど、許容させたい。だから、許容させる人を増やしたい。

――より多くの人を、新たに笑わせるほうがいい?

 そっちを求めているんですかね。100人に1万円ずつ払ってもらうより、1万人に100円ずつ払ってもらうほうがいいと思っています。

 同じ100万円ですが、「払わない」ことと「100円払う」ことの差って、すごくあると思うんです。100円払うこと、1万円払うことの差のほうが小さいと思っている。

 だから、たくさんの人に100円払ってもらいたいです。