山口銀行Photo:photolibrary

山口フィナンシャルグループ(FG)で今年6月25日、当時会長兼グループCEO(最高経営責任者)だった吉村猛氏が事実上解任された“クーデター”事件。このクーデターを山口FGが事前に計画していたことを示す社内メールを、ダイヤモンド編集部が独自入手した。山口FGは事前の計画を否定しているが、虚偽説明の疑いがある。クーデターの全貌から浮かび上がったのは、著しくガバナンスを欠いた株主無視の企業体質だ。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

株主への背任行為を虚偽説明で隠蔽か
クーデターの隠された「シナリオ」判明

「一括審議ではなく、1人ずつ採決してはどうか」

 6月25日午前。山口フィナンシャルグループ(FG)の株主総会直後に始まった取締役会。三菱重工業特別顧問で山口FGの取締役監査等委員を務める佃和夫氏のその一言で“クーデター劇”が幕を開けた。

 佃氏が言った「1人ずつ」とは何を意味するのか。

 取締役会の直前、山口県下関市の山口銀行本店講堂で山口FGの定時株主総会が開かれた。総会では、監査等委員を含む9人の取締役候補全員が、会社提案通りに承認されている。

 9人のうち、社内取締役は吉村猛氏と椋梨敬介氏の2人しかいない。続く取締役会では、吉村氏が代表取締役会長に、椋梨氏が代表取締役社長に再任されるはずだった。だが、この2人の「一括審議」に佃氏が異を唱え、1人ずつの個別採決を提案したのである。

 その結果、吉村氏の代表取締役会長再任は否決され、ヒラの取締役に降格。椋梨氏のみが代表権を持つことになった。クーデターは、わずか数分間で成功裏に幕を閉じたのだ。

 その後の記者会見で、取締役監査等委員(常勤)の福田進氏は、吉村氏を代表取締役会長に再任しなかった取締役会決議について「あらかじめ準備されていたわけではない。(取締役)一人一人が高い見識の下、健全な、適切な判断をした」と説明。椋梨氏も、ダイヤモンド編集部が11月2日に行ったインタビューで「事前に準備していたものではない」と述べている。(11月8日公開予定のインタビュー記事で詳報)

 つまり吉村氏の非選任は、あくまで取締役個々の判断であり、山口FGが主導したものではないというのが、彼らの主張だ。

 だがダイヤモンド編集部は、それが虚偽説明である証拠を入手した。

 株主総会約3週間前の6月3日、福田氏から複数の社外取締役へ発信されたメール。そこには、吉村氏を「経営トップ(代表取締役、CEO)として選定することはできない」として、代表取締役会長再任の「修正動議が必要」との文言がある。また同月16日のメールには、「吉村猛に代表権を与えず、会長は空席とする」という修正動議の具体的な中身について言及していた。

 さらに6月24日の株主総会前日には、取締役会の進行シナリオも用意されていた。そこには議長役の吉村氏が議事を進行する途中、佃氏が冒頭の個別採決を「間髪入れずに提案」するタイミングまで記されている。つまり冒頭の佃氏の提案は、あらかじめ決められたせりふとして発せられたものだったのだ。

 そこで浮上するのが、吉村氏を代表取締役やCEOから外す計画が事前にあったにもかかわらず、それを隠蔽して株主総会に諮ったのではないかという疑惑だ。

 吉村氏は6月25日の株主総会で、99%の極めて高い賛成率で取締役に承認されている。株主の意向を無視し、取締役会が身内の論理だけでクーデターを決行したのだとすれば、それは株主への背任に他ならない。取締役の選解任は、言うまでもなく株主が持つ最重要の権利である。

 極秘メールから明らかになったクーデターの狙いとは何か。その全貌を明らかにする。