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だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

遺伝子組み換えにまで行き着いた
「ドーピング問題」の深刻さ

谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]
【第11回】 2008年12月22日
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 北京オリンピックの男子ハンマー投げで2位、3位となったベラルーシの2選手のドーピング(禁止薬物使用)による失格で、5位だった室伏広治選手が繰り上げで銅メダルを獲得することになった。

銅メダル決定でも
室伏選手の複雑な心境

 それにしても、IOC(国際オリンピック委員会)理事会がドーピング違反を認定し、2選手のメダル剥奪を決めるのにオリンピックから4ヵ月近くも掛かり、室伏選手は複雑な心境を窺わせた。オリンピックの表彰台で賞賛を浴びることのない銅メダルについて室伏選手は、世界のトップを競い合う競技者の矜持を示した。

 「今回、銅メダルをいただくことになりましたが、このメダルは多くの方々のドーピング違反に対する厳しい声と受け止めています」

 今回メダルを剥奪されたベラルーシの2選手は、オリンピックをはじめ世界選手権などで常に優勝を競う実力を持ち、ハンマー投げの「顔」とさえいわれてきた。しかし、その2選手は、以前にもドーピング違反を犯し資格停止処分を受けており、今回の違反で2位だったワジム・デビャトフスキー選手は、永久追放処分となる。

 一方、IOCの失格処分に対して2選手は、「検査の過程に不満な点がある」として、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)への提訴を表明している。

 2004年のアテネ・オリンピックでも優勝したハンガリーの選手のドーピング違反で室伏選手は繰上げで金メダルを獲得したが、2大会連続してのドーピング違反で選手ばかりでなくハンマー投げという競技そのものに対する不信感が広がっている。

 また、北京オリンピックでは、他の競技を含めてドーピング違反は9件となった。ドーピング検査のための検体の総数4700といわれるなかで、違反9件ということについてはいろいろな見方があるだろう。

 ただ、違反件数がどうあれ、ドーピングが存在し続けていることを問題としなければならない。

禁止薬物と検査の
いたちごっこ

 ドーピングについては、世界アンチドーピング機構(WADA)が作成した禁止薬物のリストに則ってチェックが行われている。そのリストのなかで、競技との関連で広く使用されている薬物は、3つに大別できる。

 1つは、今回ベラルーシの2選手が使用したテストステロンのような「男性ホルモン系蛋白同化ステロイド」。この男性ホルモン系ステロイドは、筋肉増強の効果があり、パワーを必要とする競技の選手の使用が圧倒的に多い。大リーガーなどの間で大流行した「THG」も同類である。

 2つ目は、自転車競技などスタミナ、持久力を必要とする競技の選手に蔓延しているエリスロポエチン(EPO)。EPOは、赤血球の生成を促進するホルモン剤で、血液を増強し酸素を多く運搬し作業能力を上昇させる。世界最大の自転車レース、「ツール・ド・フランス」では、毎回のように選手のEPO使用が検出され、大きな問題になっている。

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谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]

1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。


だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。

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