円の「総合力」は
50年前の水準に逆戻り

 通貨本来の強さを表す指標として「実質実効為替レート」がある。この指標は約60カ国・地域の通貨を比較し、それぞれの国の物価や貿易量を加味した上で算出したもの。ドル円やユーロ円のような2国間のレートよりも、通貨の総合力が分かるのが実質実効為替レートだ。

 このレートはビッグマック指数と同様に、ある通貨が世界でどれぐらいの買う力を持っているかを表しており、円の実質実効為替レートが高ければ、海外で現地の物価が安いと感じられる。

 円の実質実効為替レート指数(10年=100)の推移をグラフ化したのが下図だ。

 グラフから見て現在の円の水準は、最も高かった1995年の半分のレベルで、変動相場制に移行した73年よりも低い。これは95年当時以降、円の購買力がほぼ半分になり、70年代前半と同じ水準にまで低下していることを示す。

 新型コロナウイルス感染拡大以前の近年に海外旅行に行き、現地の食事代が日本よりかなり高いと感じた人は少なくないだろう。その実感は実質実効為替レートに即して言えば、50年前の日本人が「海外は高い」と感じたのと同じなのである。

 なぜ円の実質実効為替レートは低下したのか。

 その原因は、日本が90年代後半以降に為替市場への介入や、超低金利政策、量的緩和といった金融政策を実施し、円安政策を取ってきたことが大きい(本特集#9『野口悠紀雄氏「円安は賃下げと同じ、インフレで貯金は目減り」、“安いニッポン”の末路』参照)。だから円の実質実効為替レートは95年をピークに低下基調に転じることになった。

 そしてグラフが示すように、アベノミクスの下、黒田東彦・日本銀行総裁が就任後に展開した大型の金融緩和策で、「円の力」の低下に拍車が掛かっている。