『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』ではデンマーク創業玩具メーカー、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由を解説してもらいます。今回登場するのは、学校でレゴシリアスプレイを導入する聖光学院中学校・高等学校の名塩隆史先生。神奈川の名門校である聖光学院は独自の科目でレゴを授業に使っています。レゴと学生の知力にどんな関係があるのか、話を聞きました。(聞き手は蛯谷敏)

■聖光学院インタビュー1回目>「超名門校の学生がレゴシリアスプレイで知力を鍛えるワケ」

超名門校が解明! レゴに真剣に向き合う学生ほど学力が伸びる探究の授業でレゴシリアスプレイを使って学んでいる様子(写真提供:聖光学院)

――聖光学院では独自の科目でレゴシリアスプレイを活用しています。狙いは学生の「意味づけの力」を高めることだといいますが、手応えはありますか?

名塩隆史先生(以下、名塩) 明確なことは言えませんが、現状では、「レゴシリアスプレイ」の意義を何か一つでも理解してくれた生徒は、授業の成績が伸びやすいという傾向があります。

 目に見えないものから何かを探したり、可視化しようとできたりする生徒は、課題を見つける力が高い。課題を解決すると、そこから次の課題が見つかります。「レゴシリアスプレイ」はその繰り返しなので、意義を見出せるかどうかで、非認知能力があるかどうかが分かるというわけです。

 私が担任している学年も、「レゴシリアスプレイ」にはまっていた生徒で、しっかりとモデルを使ってストーリーを語れる生徒は、顕著に学力が伸びました。自分で問いを立てて研究する課題も、上手に取り組んでいました。

――探究活動がしっかりできた生徒ほど伸びているわけですね。

名塩 テストの成績が上位でも、「レゴシリアスプレイ」のような探究的な取り組みにはまらない生徒は、学力の伸びが停滞しているという事実もあります。理由は簡単で、深掘りができないんです。与えられたことしかできないので、違う観点から考えたり、意味づけを考えたりする発想がありません。

 例えば、勉強法一つとっても、言われたことだけをやっている生徒は、試行錯誤しません。言われた通りの勉強法しかできないと、それが通用しなかった時に途端に行き詰まってしまいます。「レゴなんて意味がない」と最初から敬遠する生徒は停滞する傾向がありますね。ほかの先生に聞いても同じ評価なんです。私の担当している数学だけではなく、伸び悩む生徒は、英語や国語でも共通しているようです。

――こうした生徒が探究力をつけることは可能なのですか?

名塩 やはり最終的には、意味づける力がついているかという話に戻ると考えています。自分で状況を俯瞰して考えながら、自律的に行動するには、意味づける素養が不可欠です。そして、意味づけ力に必要なのは、圧倒的な知識量になんです。

 恐らく、本質的な課題は昔から変わっていないんですね。ですが、最後は自分自身が気づくしかありません。馬を水辺に連れて行けても、飲ませることはできませんから。

 一方で、「レゴシリアスプレイ」の意義を理解して積極的に取り組む生徒の中には、成績が急に伸びるケースがあります。これは励みになりますね。我々としても、そうした実情を認識した上で、基礎的な力をつける教育に力を入れていこうと考えています。

客観的に見る力が重要性を増す

名塩 最近では、大学入試で現代アートについて解釈させる課題が見られるようになってきました。「あなたはどうしたいのか」「何ができるのか」といった考えを、意味づけを通して問うケースは、さらに増えていくと思います。

――客観的に見る俯瞰するという力は、実社会でも大切になっています。

名塩 そうした力を早い段階から養っていく必要があるのでしょうね。今の生徒は、化学が苦手な子が多いんです。化学反応式を覚えられないのではなく、そもそも分子の意味が分からない。目に見えなくて、イメージがつかないと言うんですね。

 化学では、モデル化して考えることが大事なのですが、これはまさにメタ化する力です。原子やイオンを球体として捉え、現象を理解していくのですが、そもそもなぜ球にする必要があるのかで詰まってしまいます。目に見えないものに対する恐れが大きくなっていると感じます。

 もちろん、変わるべきは生徒だけでなく、教える側も同じです。従来のような、知識を伝達するだけのスタイルだけでなく、生徒から上がってきた意見を生かして、それをつないでいくようなファシリテーション型の授業はまだまだ多くありません。

 議論して終わりではなく、いかに生徒の声を拾い上げていくか。これに慣れていないと難しいと思います。伝統的な教員文化の中では、やっぱり馴染みが薄いですから。ファシリテーション型の授業は現場の先生だけでなく、学校全体の課題として捉える必要もありますね。