『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』ではデンマーク創業玩具メーカー、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由を解説してもらいます。今回登場するのは、学校でレゴシリアスプレイを導入する聖光学院中学校・高等学校の名塩隆史先生。神奈川の名門校である聖光学院は独自の科目でレゴを授業に使っています。レゴと学生の知力にどんな関係があるのか、話を聞きました。(聞き手は蛯谷敏)

超名門校の学生がレゴシリアスプレイで知力を鍛えるワケ探究の授業でレゴシリアスプレイを使って学んでいる様子(写真提供:聖光学院)

――聖光学院では「レゴシリアスプレイ」をどのように活用しているのですか?

名塩隆史先生(以下、名塩) 「レゴシリアスプレイ」を導入したのは、約5年ほど前になります。探究型の授業を模索している中で、「そもそも、自分がどんなものに興味を持っているのか」を学生に知ってもらうことを目的に、「レゴシリアスプレイ」を活用したワークショップを授業に取り入れました。

 例えば、国際連合のSDGs(持続可能な開発目標)の17個の目標を解説して、興味を持ったテーマについて、それに悩まされている当事者の状況をブロックで作ってもらう。あるいは、ドラえもんの道具ではないけれど、社会課題を解決できる製品をレゴブロックで、モデルを作りながら考えてもらいます。

 ワークを通して、最終的には自分の関心事や将来の目標を見つけてもらい、生徒同士で共有する場にしています。

 中学生・高校生の場合は、「レゴシリアスプレイ」が本来目指している「内面の問い」を発掘するのは難しいので、とにかく手を動かしてモデルを作り、それについて説明してもらうことから始めました。

 ただ、そうした内容だけでも効果は大きいと感じています。自律的に目標を立て、それに向かって計画を作って実行していく。自己調整力を養うことができます。ほかにも、観察や傾聴する力、質問力、課題設定力、想像力など、さまざまなスキルを同時に鍛えられています。

――創造力を多面的に育んでいるイメージですね。

名塩 そうですね。個人的にはその中でも一番大切だと思っているのが、「意味づけの力」を養えるというメリットが大きいですね。

 例えば、課題に対してレゴブロックのパーツを適当に3つ選んでもらい、それらを組み合わせて、意味づけしてもらうワークがあります。3つのレゴブロックで、無理やりストーリーを作ってもらうんです。

 脈略のないレゴブロック同士をつなげて話を作るためには、単純に言葉を並べるだけでは難しくて、自分の頭の中で、ある程度の構想と道筋を想像する必要があります。しかも、それを説明するので、ストーリーを可視化する必要があります。

――考えをストーリーとして語れる力を鍛えているわけですね。

名塩 そうなんです。これから大切なスキルの一つが、「意味づけする力」です。「フロー理論」で有名なミハイ・チクセントミハイ氏は、自分で意味を見つけることの重要性を語っています。目の前で起きている現象をただ受け入れるだけではなく、それにどんな意味をつけられるかが幸福につながる、と。

 ここ数年関心を集めているデザイン思考やアート思考も、本質的には意味づけの重要性を再確認するプロセスです。美的感覚を磨く必要があるのは、やっぱりすべて意味づけなんだろうな、と。

「レゴシリアスプレイ」では、自分で作ったモデルについて必ず語りますから、この力を養うのに有効だと感じています。

――「意味づける力」は確かに大切ですね。

名塩 ある生徒がワークショップ後に書いてくれた感想で、これに気づいたんです。「ドラえもんの道具」を課題として出していたんですが、終わった後に、その生徒は「意味づけが創造性の第一歩」と書いてくれたんです。

 当時、中学3年生の生徒でしたが、その子いわく、周囲の子はあまりにも目先のテストなどにとらわれすぎている。もっと将来に目を向けたり、目先の世界だけでなく、視野を広げていろいろな社会を知る装置をつくりたい、という提案をしてくれたんです。

 創造性を養うには、長期的な視点を持ち、物事を俯瞰して語れる必要があると、ワークショップを通じて感じたようでした。

創造性を解放するための条件

名塩 子どもたちが創造性を養い、長期的な視点で物事を俯瞰して語れるようになるには、条件があることも分かってきました。それは、圧倒的な知識量なんです。

 今の生徒は知識量があまりにも少なすぎます。例えば「Google検索」がうまく使えない。言葉を知らないので、どんなキーワードで検索すればいいのか分からないです。検索窓に入力する適当な言葉を見つけられなくて、みんな苦しんでいる。授業をやっていて、それを痛感しています。

 一定の基礎知識がないと、言葉が出てこないんです。そして、創造性というのは、つくづくそうした基盤があって初めて生まれるものだと思っています。だから極論すると、私の中では、実は探究活動で一番すべきなのは、本を読むことだと思っているんです。日頃から、なんでもいいから読んでみようと繰り返しています。

「レゴシリアスプレイ」を通した授業で一番の発見は、その欠落を認識したということです。知識をちゃんと蓄えることの重要性に気づいた、ということかもしれません。(2022年1月28日公開記事に続く)