配当にも
こだわりすぎない方がよい理由

 しかしながら筆者は「株主優待」はもちろん、「配当」についてもあまりこだわりすぎない方がよいと考えている。その理由は利益成長する企業の場合、複利効果が損なわれるからだ。

 一般的に企業が利益を上げた場合、その利益をどうするかという方法には大ざっぱに分けると3通りある。

(1)もうかる事業へ利益を注ぎ込む
(2)株主に分配する
(3)現・預金として保有する

 配当というのは、このうちの(2)に該当する。自社株買いというのも株主に還元する方法のひとつだろう。筆者は株主にとって最も有効な利益の使い方は配当ではなく、(1)の新たなもうかる事業へ利益を注ぎ込むことだと考えている。利益をもうかる事業へ注ぎ込むことでさらに利益は拡大していくからだ。これが事業における複利の効果である。

 例えば年間7%ずつ利益を出す企業に100万円投資したとしよう。わかりやすくするために単純化して言うと、この利益を全額配当として株主に分配すれば毎年7万円ずつを受け取ることになるので、10年後には株主が受け取る配当の総額は70万円となる。

 ところが、全く配当をせずに上がった利益の全額を事業に再投資したとすると、複利効果によって株主が保有する価値は97万円増加する。配当金を受け取る場合に比べて株主の価値は27万円増えるのだ。

 さらにこの企業が毎年利益成長を続けると仮定し、毎年利益が1%ずつ増え続ければ10年後には年率16%の利益を上げることになる。この場合の配当を含めた企業価値を単純に計算すると配当を受け取り続けた場合は215万円であるのに対し、利益を再投資し続ければ296万円となるので、80万円以上の差となる。

 ただし、ここで言っているのはあくまでも企業価値の話であって株価ではない。実際には株価はこの企業価値以上に評価されることもあれば、以下にしか評価されないこともある。これに対して配当は実際に現金が支払われるので、手にする利益は確実なものだ。

 とは言え、企業が成長する過程では株価というのは人々の期待感が反映されて実態よりも高めに評価されることはおおいにあり得る。前述の例のように毎年1%ずつでも利益率が上がっていく企業に対してはかなり高い期待感があるため、株価も上昇する可能性は高いだろう。

 したがって、利益成長がそれほど見込めないということであれば、配当という形で株主に還元するのはおおいにありだと思うが、成長していく過程では必ずしも配当を高くする必要はない。それよりもむしろ、もうかる事業に再投資してくれた方が長期的に見れば株主にとってはありがたい。

 事実、高度成長期にはあまり配当は重視されてこなかった。企業は配当という形でもうけを社外に流出させるよりも、その分を新たな投資に回して利益の拡大を目指していたからだ。

 ところが現在では必ずしもそういう企業ばかりではないため、成長分野に投資できないのであれば、配当によって株主に分配するということもやむを得ない。最悪なのは(3)のパターンで、投資も配当もせず、ただ現金をため込むだけということだ。

 だが、案外そういう企業は多い。配当を出すにしても新たな事業へ再投資するにしても預金として内部に保有しているよりははるかにましだ。やはり投資家として最も優先して考えるべきなのは、(1)のパターンであり、成長する分野、もうかる分野へお金を注ぎ込んでくれる企業を探し、そこに投資をすること、これが投資先を見極める重要なポイントだろう。

(経済コラムニスト 大江英樹)