大国ロシアの復活は幻想だが、中国は…

 結論から言えば、これは絶大の効果がありそうだ。SWIFTは国際貿易における資金送金の標準的な手段となっているが、ロシアの銀行がSWIFTから排除されると、世界中の金融市場へのアクセスが制限される。ロシアの企業や個人は、輸出入の代金の支払いも受け取りも困難になる。

 ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出は、取引が停止する。ロシアは国家収入の大部分を失うのだ。しかし、取引相手の欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集めることができる。

「新冷戦」勃発は杞憂?ロシアがウクライナ侵攻で窮地に追いやられる理由本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 米国が本気になれば、石油・天然ガスを増産して欧州を助けることができる。ロシア経済に甚大な打撃を与えることになるのは間違いない。プーチン大統領は、できるだけ早期の事態の収束に乗り出さざるを得なくなるだろう。

「3つの要求」を米国やNATOが受け入ることはない。ウクライナの大部分を実効支配できる可能性はあるが、得られるものはそれだけだ。プーチン大統領は、次第に厳しい状況に追い込まれていくことになる。

「大国ロシア」の復活は、幻想にすぎない。東西冷戦終結後、米国や欧州が築いてきた国際秩序は崩壊などしていない。むしろ、NATO・EUの東方拡大という戦略は、ほぼ完成している。だからこそ、追い込まれたロシアは「窮鼠猫を噛む」的に暴れたのだ。

 地政学的に見れば、欧州よりも、太平洋のほうがより深刻だ。

 ランドパワーを持つ中国が台湾を武力で統一すれば、日本列島からフィリピンの「第1列島線」を越えて、中国が本格的に太平洋に進出するシーパワーとなるからだ。それは、欧米や日本などが築いてきた国際秩序が太平洋で完全に崩壊することを意味する。これについては、別の機会に論じたいと思う。