物理学の醍醐味

 物理学、特に素粒子研究の面白さは、世界の究極の素になるものを直接見られるところにあると思います。直接といっても肉眼で確認できるわけではありませんが、機械を通してでもその存在に迫れるのはこの学問ならではの楽しみです。

 皆さんも子どもの頃、顕微鏡で植物の細胞や微生物を覗いた体験をお持ちだと思います。そして、自然の神秘に魅せられた時期があるのではないでしょうか。物理学はその感動の延長にある学問だと思います。

 我々はいったい何でできているのか、そして宇宙はいったい何でできているのか、その究極を見ることができる学問。それも観測だけで確認するのではなく、仕組みや成り立ちを理解しながら進んでいく点がとても興味深いのです。

 また、想定された理論を検証できる技術を現在の人類が持っていることは驚嘆すべきことです。昔、想像や机上の計算だけで考えられてきたことが、最先端のデバイスを使って実際に確認できるのです。そのためには数人の天才だけでなく、多くの科学者の力が必要になってきます。そうした協力体制が実現できていることも素晴らしいと思います。

 自然現象を理論として説明し、さらにそれを実証する──自然界をワンステップずつでも理解できるのは本当に感動的なことです。理論的、数学的に正しいモデルはいくらでも作れます。しかし、物理学の場合は必ずそれを実証しなければなりません。自然界の真実は一つです。そして自然がその方式を選んだのには何らかの理由があるのです。その理由を解明できる喜びこそが物理学の醍醐味でしょう。

『ヒッグス粒子を追え』を読むとそのような物理学者の思考過程を追体験できます。量子場の理論という強力な武器を手にした人類が、万物の創生から宇宙の進化までをどのように解き明かしてきたのか、その歴史と研究成果を知ることができるでしょう。

そして最後まで読み終えたとき、現代の最先端科学の概要が見えてくるはずです。知的好奇心を持つ読者にとっては、必読の1冊と言える本だと思います。


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ヒッグス粒子を追え 宇宙誕生の謎に挑んだ天才物理学者たちの物語

ヒッグス粒子発見とノーベル賞獲得をめぐる<br />天才学者たちの泥臭い人間ドラマ

フランク・クローズ 著/陣内 修 監訳/
田中 敦・棚橋 志行・田村 栄治/訳

世紀の大発見と話題になったヒッグス粒子。本書では素粒子論の始まりからヒッグス粒子発見までの歴史と研究成果を丁寧に解説しつつ、アインシュタインら科学界のスター達がこのテーマをめぐっていかに共闘し対立したかをドラマチックに描く。知的好奇心をくすぐる決定版サイエンス・ノンフィクション!


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