東京都内で義務教育初の民間人校長として杉並区立和田中学校校長を務めた藤原和博さん。対談前編では、閉塞感漂う日本を救うために、学校から社会に滲み出している「正解主義、前例主義、事なかれ主義」から脱却する重要性を語っていただいた。では、この3つの主義から抜け出すための改革を行うには、まず何から手をつければよいのだろうか。自ら学校現場に入り、改革を進めた藤原さんだからこそわかる、本当に日本の教育を変えるための処方箋を聞いた。
大阪府・市ではただいま民間校長を公募中
3000人の民間校長で日本は変わる
石黒 前編では、日本の教育を変えるために、「正解主義、前例主義、事なかれ主義」からの脱却が重要だとお話いただきました。では、そうした変革を進めていくには、まず何から始めるべきでしょうか。
大阪府教育委員会特別顧問、東京学芸大学客員教授 1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008年、当時の橋下大阪府知事の特別顧問に。著書は『人生の教科書[よのなかのルール]』(ちくま文庫)、『35歳の教科書』(幻冬舎)、『父親になるということ』(日経ビジネス人文庫)、『坂の上の坂』(ポプラ社)など多数。
Photo by Toshiaki Usami
藤原 政策変更に魂を吹き込むには、まず校長が変わらないといけません。今までのように教員からの純粋培養でポストにつく、あまり世の中を知らない校長では無理です。もちろん全部変えろと言っているわけではありません。特に都市部のようなクリティカルシンキングとIT、英語の3点セットを進化させるべき地域では、民間校長をもっと増やさなければいけないというのが僕の主張です。
いま全国には小学校が2万校あり、中学校は1万校です。その中学1万校に3000人民間の校長をぶち込む。3割くらい入ると、周りも染まって変わると思うんです。これはもう動きが始まっています。現・大阪市長の橋下さんたちが府立学校と市立小中学校の校長公募を可能にする条例をつくったんです。
石黒 それは都道府県や市町村の条例でできることなんですか?
藤原 条例でできる部分があるんです。実は校長の人事は、文科省管轄ではありません。知事でも市長でもなく、教育長が人事の任命権を持っているんです。教育長とは、教育委員会事務局のトップで、今の日本の法律ですと知事の部下でもありません。私立学校を管轄する私学課は知事が管轄する知事部局にありますが、一方で公立の小中学校・高校は教育委員会事務局の管轄下に置かれています。
市町村も同じような構図で、教育長が小中学校の教員や校長の任命権を持っています。教育長が英断をすれば、民間人校長は誕生しますが、その対応を待っていると遅くなるということで、橋下さんが条例をつくって議会で通しました。
一番画期的だったのは、大阪府が設置する府立校で、校長の空きポスト、つまり定年や定年前に辞めた場合の全数を公募にかけることを決めてしまったこと。来年の春、空きポストが約20人分出るんですが、それに公募をかけ、内外(教頭、民間)が競って、民間人も試験官に入るような面接を実施しました。
今までは教頭になったら年功と学閥と組合閥の複雑な絡みのなかで、校長にピックアップされていました。そういう長い歴史の中での利権を今回、壊してしまったんです。要するに、教頭も手を挙げて、民間と競らないと校長になれないようになりました。
同じように大阪市の小中学校についても50人の空きポストを全数公募にしました。僕も手伝ってネットを使って派手に告知をしたのですが、民間から928名応募がきました。教頭先生も362人手を挙げたので、計1290人で50のポストを争ったわけです。結果、11名の民間校長が来春誕生しますよ。