中国企業とオープンな会話は不可能
“まるごと中国生産”を見直す

 2020年上半期、日本はコロナ感染拡大により、医療用品や衛生用品が品薄となった。

 当時、「人命にかかわる医療・衛生用品の中国依存は見直すべきだ」という世論が強まった。

 こうした中でも、東京に拠点を置く衛生用品メーカーのA社は、上海からマスクを調達し続けていた。今回の上海ロックダウンを経ても、長年のパートナーである上海企業のB社とは安定的な取引が続いているという。

 目下、“サプライチェーンの脱中国”が取り沙汰されているが、A社は「高品質を実現できる中国の生産拠点を別の国にシフトさせる考えはない」という。

 その一方、A社管理職の坂場健氏(仮名)は、上海のパートナーであるB社とのやりとりに微妙な変化が生じていることを感じ取っていた。

「今回の上海ロックダウンもそうでしたが、B社の歯切れの悪さを感じています。ロックダウン中も『大丈夫ですか』の一言さえ掛けられませんでした。答えにくいことが想像できるからです。今の中国の状況を思えば、当社としてもメールやチャットに余計な履歴を残さないよう用心しなければなりません。コロナの2年半はB社への忖度(そんたく)ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏)

 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる。幸い、A社がB社から輸入する製品は、長年のリピート注文がベースだ。リピート注文であれば、新たな問題や交渉が生じる余地はほとんどない。

 しかし、仮にA社がB社との間で新たな事業を一から立ち上げるとなると話は別だ。中国の地方政府の介入やB社の緊張が高まる中で、取引条件はさまざまな制約を受けることが目に見えているからだ。坂場氏は、今後の方向性をこう見据えている。

「新規事業については、原材料のみ中国から調達して、日本国内で製造する計画です。これができれば、為替リスクも減らせます。確かに中国は“安定したパートナー”ではあるのですが、新たな製品を企画しそれを完成品として生産する場所ではなくなりました」

 ちなみに、海外現地法人を持つ日本企業を対象に、国際協力銀行(JBIC)が行った「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2021年度海外直接投資アンケート調査結果・第33回)」を見ると、2020~2021年度にかけて「海外事業は現状維持」「国内事業は強化・拡大」する傾向が高まっていることがわかる。

 一昔前、「中国を制する者が世界を制す」といった言葉も流行したものだが、最近は「中国をあてにしていたら、食いはぐれる」という正反対の受け止め方を耳にするようになった。 “コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ。