批判も多かったが
安倍氏の人柄は世界から慕われた

 第2次安倍政権は他にも、高支持率の維持を意識した結果、「全方位社会保障」「教育無償化」「働き方改革」「改正入管法成立」といった数々の成果を上げた。

 これによって高い支持率を保つことが、「特定秘密保護法」「安全保障法制」「テロ等準備罪(共謀罪)法」といった、安倍氏が第2次政権で「本当にやりたかった政策」を実現するための布石になったともいえる。

 しかし、一連の政策は、「自民党の歯止め役」を自負する連立パートナー・公明党の意見と折り合いを付ける形で生まれたのも否めない。そのためか、「どれも中途半端」「日本国民の安全や、日本の領土を守り切れるのか疑問だ」などと批判を受けるケースもあった。

 アベノミクスも結局、斜陽産業の保護にはつながったが、経済を成長させる新しい産業を生むことはなかった。その現実は、新型コロナウイルス感染拡大によって露呈した。日本社会のIT化、デジタル化などが世界から大きく遅れていたことを、日本国民はコロナ禍を機に痛感した(第294回)。

 そして、安倍氏の悲願であった「憲法改正」には、ついに届かなかった。

 外交においても、確たる成果はない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とは27回も会談し、北方領土問題を解決しようとしたが進展はなかった。北朝鮮拉致問題の解決にも尽力したが、大きな成果は上げられなかった。

 だが、安倍氏の人柄は世界から慕われた。銃撃事件を受け、ウクライナ紛争の渦中にあるプーチン大統領が弔電を寄せたほどである。コワモテのドナルド・トランプ米前大統領や習近平中国国家主席も「安倍さんなら」と会談した。

 決して偉そうにはしない。どの国にも公平かつ穏やかに接し、大国に一目置かれる信頼を得る。安倍氏は、日本外交のあるべき姿を見せてくれた。

 政権末期には「森友学園問題」「加計学園問題」「桜を見る会」など、「権力の乱用」と批判される問題が次々に起きたのは確かだ(第226回)。ただ、これらも今思えば、自身に群がるさまざまな人たちを無下に扱わず、丁寧に対応していた安倍氏の人柄から起こってしまったのかもしれない。